露津まりいさんの連載サスペンス小説『香獣』(第23回)をアップしましたぁ。相変わらず四面楚歌の危機的状況ですが、芙蓉子は三梼物産の蘆目河に面会した際のわずかな情報を元に、源氏香の意味に気づきます。

 

 これらの文様の共通点は、五本の縦棒を結び合う横棒が必ず二本ある、ということだった。

 カミとシモと呼ばれているらしい、その二本の横棒によって参加者五組はカミで結ばれる者らと、シモで結ばれる者らに分かれる。

 シモの線で結ばれている者らは、情報を提供する側とみられた。カミの線で繋がれた者らは、それによって利益を享受した側。もっとも初音、真木柱などには二本の横棒のいずれにも触れない、孤立した縦棒が一本ある。それは資金が足りない、あるいはインサイダーを疑われる立場であるなど、何らかの理由で利益に与れない者が、数合わせのためにその場にいたものと思われた。

 そして、そこで醸された利益の結果。それをカミとシモ二本の横棒の幅が示しているとも言えるが、数週間の後にあらわれた具体的な株価上昇の額は、記録の裏表紙に鉛筆で走り書きされていた。

 走り書きなのは、あくまで覚え書きだからだ。結果としての利益の多寡は、貸し借りには勘定されていないとみられた。現実に得られる利益は売り買いのタイミング、手持ちの資金額によって大きく違う。記録に残すべき互いの貸し借りは、情報のやった、とった、のみであり、その後は各々のゲームなのだ。

(露津まりい『香獣』)

 

う~ん、雅なお遊びである源氏香の席は、インサイダー取引に利用されていたんですね。露津さん、株などの経済にも詳しいんだなぁ。

 

2000年代に入って、世界の変化が決定的になったと思います。00年代は変化要素が生まれた10年でしたが、2010年代の10年は、変化の方向性が固まる時代になるでしょうね。この時代変化を最も端的に表すのは政治や経済の世界です。文学の変化は必ずワンテンポ遅れて生じます。そういう意味で露津さんの『香獣』は、時代精神を先取りしていますね。

 

まだ華々しい成果は出せていないですが、30代以下の作家は現代的変化を当たり前のものとして捉えています。問題はこれからどの文学ジャンルでも中堅となる40代から50代の世代だな。彼らは一昔前の既存の文学権威やシステムを知っている最後の世代です。働き盛りで経験もあるわけですから、50代世代が若い世代に先駆けて、新たな時代の文学を生み出す可能性はあります。しかし一方で、既存権威やシステムにしがみついて新たな文学動向を阻害する反動勢力になる可能性もあるなぁ。いずれにせよ文学は文学者が考えるほど文学的ではありません。文学の世界ばっか見てちゃダメよん。

 

 

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