第2回 辻原登奨励小説賞受賞作 寅間心閑(とらま しんかん)さんの連載小説『再開発騒ぎ』(第05回)をアップしましたぁ。黒ヒョウさんは、再開発反対運動に反対のやうです。このあたりが寅間さんの作家思想の面白いところですねぇ。後ろ向きの正義感と申しますが、グルッと一周して真っ当なところに出てくると申しますか(爆)。しかしながらこういった思考は、作家の痛切な断念や挫折感に裏付けられていないと、説得力を持たないものでもあります。

 

 もう彼女は女優の卵ではないし、僕もやはり画家の卵ではない。互いにその事実を消化し、ある部分ではきれいさっぱり忘れてしまっているから、こうやって楽しく、そして穏やかでいられるのだろう。

 本当は、レンブラントの画集の在り処がまだ気になっていたけれど、結局口には出さなかった。別に無理をしたわけではない。ケーキを一口食べる度、幸せそうに目を閉じる彼女を見ていたら、どうでもよくなってしまっただけだ。

 女優の卵と画家の卵、ではない形で新しく始めていく。

 そんな選択肢に、どうして今まで気付かなかったんだろう。もしかしたら目の前の彼女はとっくに気付いていたのかも、と考えると胸が詰まって仕方がない。

 「食べないならもらっちゃうよ」

 そうおどけてフォークを伸ばす彼女に潤んだ目を見られたくなかったから、僕は俯いたまま慌てたふりをした。

(寅間心閑『再開発騒ぎ』)

 

こういった箇所が、ファンタジックな『再開発騒ぎ』の重しになっています。このような箇所がなければこの作品は成立しないと言ってもいいかと思います。言うまでもなく、『もう彼女は女優の卵ではないし、僕もやはり画家の卵ではない。互いにその事実を消化し、ある部分ではきれいさっぱり忘れてしまっているから、こうやって楽しく、そして穏やかでいられるのだろう』といふのは反語であります。後ろ向きには違いないのですが、断念の先に前進といふか変化を求めているので、主人公は黒ヒョウさんのバーに、たった一人の人間として出入りすることができるのです。

 

んで03金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)の締め切りが迫ってまいりました。今月末の03月31日までです。文学金魚新人賞はジャンルも枚数も、これまでの作家のキャリアも問わない賞です。賞をあしがかりに世に出たいとお考えになっている皆様はもちろん、現状の様々な文学環境に行き詰まりを感じ、違う方法で世の中(読者)にアピールしたいとお考えになっている作家の皆さんも大歓迎です。皆様のご応募心よりお待ちしております。

 

 

寅間心閑 連載小説『再開発騒ぎ』(第05回) pdf版 ■

 

寅間心閑 連載小説『再開発騒ぎ』(第05回) テキスト版 ■

 

■ 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)は3月31日〆切です ■

金魚屋では21世紀の文学界を担う新たな才能を求めています。

小説はもちろん短歌・俳句・自由詩などの詩のジャンル、あるいは文芸評論などで、思う存分、新たな世界観、文学観を表現したい意欲的作家の皆様の作品をお待ちしております。

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