偏態パズル_第69回_cover_01偏った態度なのか、はたまた単なる変態か(笑)。男と女の性別も、恋愛も、セックスも、人間が排出するアノ匂いと音と光景で語られ、ひしめき合い、混じり合うアレに人間の存在は分解され、混沌の中からパズルのように何かが生み出されるまったく新しいタイプの物語。

論理学者にして気鋭の小説家、三浦俊彦による待望の新連載小説!。

by 三浦俊彦

 

 

 

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■ ほなみ先生のブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ! ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ! ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ! ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ! ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ! ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ! が、僕の膝に地響きを伝えるそのブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ! ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!が、だんだんかすれてきたようなのです。

 いや、かすれるというより、微妙にイレギュラーに、そして次第に湿ってきたという感じなのです。

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 強い日差しの辛うじて日陰なのに、息も白くなる冬には程遠い季節なのに、ほなみ先生の成分は大地に向かって一直線の可視蒸気になっていました。湿り気あらわに。

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーイ

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーップ

 ブゥップ……

 ブブゥブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブヒブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブヒュルプーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブヒャヒャルぷゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブヒャヒャルぷゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブキャギャルボゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブリリブブィブィーーーーーーーーーーーーーーーッッ!

 いかん、と僕は思いました。

 ベタな「ブリ音」が出てしまった。スタンダードなブリ音が。ハイパースタンダードの「ブリブリ音」まであとわずかなのでは。

 

偏態パズル_第69回_01

 

 それでも僕は「体質が体質を抹消してくれる」というコンセプトにしがみつき、まだどこかで楽観していました。

 ここまでくればそりゃもう最後まで行くだろうと。

 天然体質的ガスダイエットの技を生まれ持ってきた稀代のほなみ先生だろうと。

 もちろん世の中そう甘くなかったのです。

 プ、ととうとうツッカエルような半音とともに突然

 「♀♯※¥☆♀♯※¥☆♀♯※¥☆!」

 黄土色に輝く超太い円筒が地面に突き刺さりました。

 ドドドドドという勢いで、それが超合金円筒かに見えたほなみ物質はまったくの液体で、地に達するや否やぴしゃぴしゃと飛び散り損ないつつ直ちに浸み込んでしまうのでした。土へのその浸み込みぶり同化ぶりは完全に水なのでした。

 これは驚きでした。

 僕の目撃体質をもってしてもこれほどの太さの円筒物質は初めてだったので、さぞ硬かろうと反射的に予期していたからです。印南先生がいつぞやのレクチャーで〈極腸常識その1〉として指摘されていたごとく、腸内物質の硬さと太さはほぼ反比例関係にあるものだからです。肛門の粘膜性伸縮度を考えれば当然の生理学的認識でしょう。

 

偏態パズル_第69回_02

 

 液体なのにこの断面積。いったいどんな粘膜的張力をしているんだろうと僕は希望が潰えたショックに打ちのめされるのも忘れて呆然陶然と見守りました。

 黄土液体はしばらく途切れず土に浸み込み続けましたが、やがて太さはそのままに色がだんだん濃くなってきました。そして気がつくとズドーンと巨大な大蛇が漫画のようなとぐろを巻き続けていたのです。

 見事でした。巨大直径の水下痢が大地に浸み込みつつ次第に密度を増していって、いつしか固形泥糞として盛り上がっていたのです。浸み込みから盛り上げへ。そしてうねうね系トグロ便も、ポチッと肛門から切り離れてゆっくり横たわりに加わっていく先端、いや尻尾というべきか、一番奥にあった部分が一番硬いのでした。鋭い剣先のようでした。

 水~泥~粘土~鉱石というふうに寸刻みに硬さを増してゆくグラデーション系トグロ便です。

 そして1秒の休みもなく、今度はドカドカと岩石が降ってきました。

 それぞれ親指大の硬塊です。バスバスと大蛇表面に突き刺さり、めり込み、沈み込み、茶色地に焦げ茶チョコチップが散り嵌まっていきました。正確には、スポンジとなるツチノコ肌は黄土色から真っ茶色のつやつやグラデーション、そこへ焦茶かりんとうが突き刺さっては沈んでゆくのです。お菓子工場を見学しているような幻惑感でした。

 

偏態パズル_第69回_03

 

 ここでほなみ物質は印南先生がいつぞやのレクチャーで語られた〈極腸常識その3〉にも見事に反しています。つまり、腸内物質というものは先に出る方、つまり出口に近いところにあるモノが水分吸収されつくして硬質であり、奥にあるモノは液状に近く、中間に大蛇的な中間湿度の標準系が詰まっているのがふつうであると。ほなみ物質はその順番が完全に逆転していたわけです。

 それにしては今思えば〈極腸常識その2〉には従っていたようです。つまり、硬度と色彩濃度とは比例する、という法則です。

 つまり、腸蠕動によって物理的に調整できる部分で極常識を覆し、化学的必然の部分では極常識に従うというそれなりに節度ある、公立中学の教師らしい腸技を展開していたことになりますね。

 さて実はもうそのあとは切れ切れにしか覚えておりません。

 ほなみ先生は岩石爆弾の後もゆうに10分間は脱糞を続け、それがまあなんというか、滝のような下痢に戻ったかと思うと下痢に交じってばらばらと小粒便秘便の雨あられ、急に極上健康大蛇がバナナ上にうねり出たかと思うとその末端が拳大の罅割れだらけの乾燥巨岩、そのあとにまた山吹液状シャワー、そしてマヨネーズぶりぶり便、ガスったしぶり堅糞、……とまあとにかく順番がでたらめなのでした。

 いやもうえらい騒ぎでした。

 この騒ぎはなんなんですか、希望を抱いた罰ですか。

 〈極腸常識その3〉には徹底的に逆らう覚悟のほなみ先生のようでした。

 ほなみ尻直下の有様は、つやつや横たわる幾山ものおろちの上にかりんとうやらチョコレート片やら小豆粒やらが雑然と突き刺さり、褐色系とりどりのソースやジュレやクリームが透明にあるいは半透明に覆ったりはみ出したり周囲に飛び散ったり、その先に思い出したようにチョコ片や甘納豆が転がっているという、お菓子ゴブリンの食べ散らかしでした。

 というか、ほなみ先生が「ウンコレス・全ガス状排泄体質」であり、そうした稀有の体質がわが苛立たしいビジュアル体質を浄化し解除してくれるに違いないという希望が砕け散った現実にようやく僕は目覚めて、泣いていました。

 ほなみ先生の長尺のカオス脱糞劇が終了に近づきふたたび

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 の規則的一斉射撃に戻った頃にはぼろぼろと涙が止まりませんでした。

 ブゥ~~連続鳴動は僕の嘆きそのものというか。この唯ガス延々光景に魅せられたばかりに「ウンコレス・全ガス状排泄体質」を信じ、ひたすらそれゆえにこそ僕はいつになく真面目にビジュアル体質に盲従していたのでしたが。

 ああ……

 こうなるとは……

 しかもただの「光景」ではなく、やはり罰だったんですかね、いつもの目撃対象とは別レベルの順序逸脱的超カオス脱糞、「無駄な希望は捨てよ、運命に、体質に身を任せよ」的お告げが念入りに象徴的に叩きつけられたということかと。

 というかなんというか、それ以上だったかもしれないのです。

 この時も僕はぼんやり空想していたのですが、今思い出してみるとむしろ反空想的真実だと思われるのですが、そう……

 ほなみ先生は本当に「ウンコレス・全ガス状排泄体質」だったのであり、オナラだけで排泄をすべて済ませる妖精体質だったのであり、生まれてこの方ずっと、あるいは初潮以後といったわかりやすい期間ずっと脱糞なしで過ごしてきたにもかかわらず、我が目撃体質の磁場がほなみ妖精体質に変調を及ぼし、初めて、あるいは何年ぶりかで思わぬ脱糞経験をほなみ先生に強いたのではなかったかと。

 だからこんな大量なのだし一見でたらめな排泄順序も何百週間ぶんかを圧縮してあたふた再演した結果だったのではないのかと。

 

偏態パズル_第69回_04

 

 そう……、

 僕のせいではなかったかと。

 僕さえいなければ、ほなみ先生の体質は……

 しかし……、僕の体質に通用しないようであれば、ウンコレスだろうが唯ガス体質だろうが妖精体質だろうがいかなる超自然に頼ったにせよもともと希望も何もなかったわけで。

 まあそんな僕なわけで。

 目撃体質ないしビジュアル体質なるものが僕の僕たるゆえんでは決してないにせよ、この体質と折り合いをつけていくしかないのかと。

 ほなみ先生は、次第にかすれて小さくなってゆくブゥーーーーーーーーーーーーーーーッ!を名残惜しげにつづけた挙句、ようやく腰を上げて、生徒たちの方に戻っていきました。

 ああ、首をかしげている。

 やっぱり僕のせいで、出るはずのないものが出てしまったんだな……

 我が身の業の深さを思い知るのが先か、ほなみ先生の希少体質への我が体質的干渉がその後もほなみ人生に悪影響を及ぼしていはしまいかと罪悪感の準備を調えるが先か、そんな感慨に耽ってでも体質的人生を積極的に楽しむべきなのでしょうけれども……

(第69回 了)

 

* 『偏態パズル』は毎月16日と29日に更新されます。

 

 

 

 

 

 

 

天才児のための論理思考入門  下半身の論理学