紫雲 連載小説『クローンスクール』(第05回)をアップしましたぁ。第5回になると、なんとなく紫雲さんという作家が作り上げる作品の特徴がわかってくると思います。
美雨が医務室に行きたくないのは、いまや64の定宿だからだ。合わせる顔がないと思った。あのとき止めていれば。そう思わない日はなかった。美雨と親しくしたいと思っていた生徒だ。止められたのは美雨だけだった。
医務室は配給部の真裏だ。AからCまで三部屋ある。それぞれの班が指定された医務室を利用できた。互いに顔を合わせることなく、カウンセリングや治療を受けられる。
十人分のベッドが置かれ、入院病棟のようにカーテンで仕切られていた。そのうちの半分が常に埋まっている状態だ。常連になって二ヶ月が過ぎた。何が64よ。喉の奥で呟き、唯は天井に溜息を吐き出した。小一時間ほど眠ったが、体が軽くなることはなかった。
紫雲『クローンスクール』
5章の最後は主人公(描写対象)が美雨から64、唯に変わります。『クローンスクール』は顔などが同じクローン少女を鍛えるための学校ですが、その均一という前提に立って主人公が次々に変わってゆく描写になっていると言えます。小説技法的に言えば三人称一視点小説ではなく、三人称複数視点小説。この複数が、基本、クローン少女の数だけあるわけです。
それがどういう作家思想に基づいているのかと言えば、恐らくですが、紫雲さんは作品の世界観そのものを描き出したいからではないかと思います。その意味で主人公の美雨もまた、中心になるとはいえ作品世界観の一つの駒かもしれません。この読解は間違っているかもしれませんが、かなり意欲的かつあまり類例のない小説ではないでしょうか。
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