松原和音 連載小説『学生だった』第15回をアップしましたぁ。『学生だった』は作家の実人生をベースにした私小説だと思いますが、それだけでは小説にならない。わたくし小説であればわたくしをさらけ出さなければなりません。
「ほら、あなたは院生じゃない」先輩の声が再生される。違う。女だよ。私のサンタさんはどこに行ったの? 先輩、助けて! 叫びたい。こんなこと、だれにも言えない。自分だけ、特別だと思ってたの? どこにでもいるのに。
違う! 彼と私との関係が特別だと思っていた。家族のこととか、他人には言えないことをしゃべってくれて、でも、彼は男で、私はただの学生だ。弱みをみせたって、彼が男だという事実が変わるわけではない。
私のバカ。自分がなにをなくしたか、気づくがいい。偉そうな私が言う。彼は人をだますことをどうとも思ってないんだよ。だます? 新しい女の人のことが好きすぎて、私のことなんて念頭にないのかもしれないじゃない。枕に頭を伏せる。もうダメだ。疲れているのに、起き上がってベランダに行く。バスタオルを一枚、洗濯バサミから外す。
地獄だった。彼が本当はどうしているのか知りたかった。知っていたのに。
松原和音 連載小説『学生だった』
ああいいですねぇ、本当にいい記述の小説です。もし作家の実体験が素になっているのなら辛い記述でしょうが、ここまで書かなければ小説になりません。小説、作家にとっても読者にとっても時にとても残酷な表現です。ただ残酷が極まらなければ読者は読んでくれない。これも残酷な真実です。
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