松原和音 連載小説『学生だった』第06回をアップしましたぁ。今回は彼氏篇といったところかな。ジュリアン・ソレル、もちろんスタンダール『赤と黒』の主人公です。一昔前はすんごくよく読まれた小説ですが、今はちょっと人気ないかな。でも長編小説のお手本のような作品です。
彼はたまに、両手で揺さぶってやりたくなるようなことを言う。本気で悲しんで、表情がゆがむところを見るのを楽しんでいるのかもしれない。水に墨汁を垂らしたときのように、私の感情はどんどん濁っていって、不安が波紋のように広がる。叫びたくなるのを抑えて、彼にしがみつくと、彼は笑って迎え入れてくれる。ただの冗談なんだ。そう思わないと、恋人同士でいられない。一人になってしまう。
松原和音『学生だった』
とてもいい叙述です。『学生だった』は一人称一視点文体なのですが、読んでいると三人称一視点小説のような感じがしてくる。そのくらい冷たいような客観的視線が特徴です。この作家の大きな武器だと思います。
■ 金魚屋の本 ■
■ 金魚屋 BOOK SHOP ■
■ 金魚屋 BOOK Café ■