第8回金魚屋新人賞受賞の松岡里奈さんの小説『スーパーヒーローズ』(第15回)をアップしましたぁ。相変わらず凄まじい小説ですね。
ジョニーへの愛は、今まで抱いたどんな愛とも違っていた。これは完全に未来を前提としない愛だった。彼を思う時、永遠に今が続いていくように錯覚した。
欲しいものなんてない! 達成すべき目標もない! 私は今、彼を見ていたいだけだった。
未来などどうでもいい! 若く、いつまでも若くありたい。永遠に若くありたい。それはアメリカ人の理想と重なっていた。いつまでも若くいたいと願わない人はいない。しかしアメリカ人はそれを恥ずかしげ見なく大っぴらに口にして、実現させようとしている初めての部族だった。アメリカは世間知らずだが抜群に行動力のある子供に似て、人目も憚らず不可能な夢を口にし、その為に一直線に邁進する。
私はアメリカに触発される形で、自分の欲望にかつてないほど敏感になっていた。自分の欲しいものと、欲しいと思わされていたものの区別が残酷なほどつくようになった。私は美しくなりたいのではなかった。口紅はもう要らなかった。ファッション雑誌はもう要らなかった。香水をすりつけること。化粧をすること。全ては生きていると演出し、仲間に入れてもらいやすくする為だった。死に向かっている事実を隠し、永遠に生きていられると錯覚させる為のむなしい演出だった。
まだまだ足りなかった。私は体にめり込む拳を夢見ていた。もう宥められる必要もなかった。私はただ強い男になりたかった。決して老いない男に。鉄の男に。スーパーヒーローに。ここでもアメリカの思想と私の望みは一致していた。
松岡里奈『スーパーヒーローズ』
ここまで具体的で極度に観念的な小説を、石川、読んだ記憶がありません。『スーパーヒーローズ』をほぼ純粋な小説として読むと、作家には『行け! このまま進め!』と言いたくなりますし、『スーパーヒーローズ』の主人公に感情移入すると、『危ない、ちょっと立ち止まって考えた方がいいよ』と言いたくなります。その危うさも含めて非常に魅力的な作品です。
■ 松岡里奈 連載小説『スーパーヒーローズ』(第15回)縦書版 ■
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