第8回金魚屋新人賞受賞の松岡里奈さんの小説『スーパーヒーローズ』第10回をアップしましたぁ。アメリカ留学篇です。
アメリカには嗅ぎなれない匂いや音が溢れていた。マリファナの匂い、異質な南米のスパイスの匂い。そこかしこから中国語やスペイン語が聞こえる。インド料理屋に入れば、天井からいくつも伸びた細い糸を手繰り寄せながらぐんぐん上がっていくような、あの独特な進行の音楽が爆音で流れている。
しかしアメリカについて知れば知るほど、この国の本質は、そのような混沌とは正反対なのだと理解するようになった。自分の五感で感ぜられる色と音と匂いの洪水はまやかしだ。むしろ、この国の本質は正反対の透明で無臭の何かだった。それは自由や平等といった普遍的な観念だった。他の国のような色や匂いのついた独自の文化ではなく、無味無臭で透明の『観念』を基盤としているのだ。インド人はインド人の匂い、メキシコ人はメキシコ人、中国人は中国人の匂いをさせながらアメリカにいるが、彼らの匂いのする身体を全て剥ぎ取れば、そこにはひどく透明で全く同じ形をした精神が見つかる。アメリカはその意味で、これほど表面的には物質主義の様相を呈しながら、実際は精神にその本質を備えた文化なのだった。
松岡里奈『スーパーヒーローズ』
主人公のフミが抱いたアメリカに関する概念は、驚くほど正確です。非常に高い洞察力と知性を持っている。そんな知的な若い女性が汚濁に満ちたとも言えるアメリカの地上で天上の世界を夢見る。『スーパーヒーローズ』、スリリングな小説です。
■ 松岡里奈 連載小説『スーパーヒーローズ』(第10回)縦書版 ■
■ 松岡里奈 連載小説『スーパーヒーローズ』(第10回)横書版 ■
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