世界は変わりつつある。最初の変化はどこに現れるのか。社会か、経済か。しかし詩の想念こそがそれをいち早く捉え得る。直観によって。今、出現しているものはわずかだが、見紛うことはない。Currency。時の流れがかたちづくる、自然そのものに似た想念の流れ。抽象であり具象であるもの。詩でしか捉え得ない流れをもって、世界の見方を創出する。小原眞紀子の新・連作詩篇。
by 小原眞紀子
場
ここだ。
それは時空である
地がひび割れて
熱い湯が吹き出す
その場所であり
瞬間である
其方らは歩きまわる
ここだ。
誰かが立ち止まり
皆で振り返る
地面を踏みしめ
わずかな盛り上がりを
傘で叩くと
互いの顔を見合わせて
その時を待つ
ほっそりと湯気が立ち
じくじくと溢れてくる
それを見るや
男たちはシャベルを手に
駆け寄ってくる
三三五五
少なくとも四日間
週末までには
湯だまりで女たちは
身体を洗う
裸の子らが走りまわる
ここだ。
誰か見上げると
空が割れ
水が滴っている
雲が垂れ
低く垂れ込めて
皆で傘を開くと
ただじっと目を離さず
その時を待つ
竜巻のように
黒い雲が縒れて
絞り出される
水煙が棒になり
それを見るや
女たちが洗面器を手に
駆け寄ってくる
ににんがし
しさん十二倍
呪文を唱えながら
神の腋の下から流れる
香水なのだから
女たちは陶然と浴び
男たちは呆然と立つ
そこだ。
時空を一枚めくれば
菜の花が咲いて
せせらぎが聞こえる
(だけど知っている)
時空を重ね合せれば
東の月と
西の日が
そっと目配せする
(だから知っている)
黒い頭の子らが
飛び上がったり
寝転んだり
白髪頭の爺婆が
腰を伸ばしたり
寝込んだり
そうして時が過ぎるのを
待っている
ただ待っている
そこだ。
と誰かが言うのを
時空の腑に落ちた
鯛の頭が
其方らの胃の腑に
落ちてくるのを
ときに
遠くから
近くに寄って
目にも見よ
月でも日でもない
其方らにも
一度見えれば
二度三度
時空は姿を現わすだろう
耳を傾けるべきは
その言葉しかなく
握るべきは
その手しかなく
どこだ。
花のようにひろがる
その手は
どこだ。
掬い上げた湯を
病者にそそぐ
手を差しのべて
其方らは互いに
手を繋ぐ
誰の手であっても
どの手であっても
その場にあるから
* 連作詩篇『Currency』は毎月09日に更新されます。
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