世界は変わりつつある。最初の変化はどこに現れるのか。社会か、経済か。しかし詩の想念こそがそれをいち早く捉え得る。直観によって。今、出現しているものはわずかだが、見紛うことはない。Currency。時の流れがかたちづくる、自然そのものに似た想念の流れ。抽象であり具象であるもの。詩でしか捉え得ない流れをもって、世界の見方を創出する。小原眞紀子の新・連作詩篇。
by 小原眞紀子
花
秘密を教えよう
世界のごくひと握りの
ひとしか知らない
それもよくは知られてない
時についての
秘中の秘を
誰にでも言ってはならず
言ったところで理解されず
ただそこにある
だが流れている
時は巨大な花である
想いはせれば
透きとおる空間に
花弁の色が浮かぶ
赤みがかかった
桃のような
其方らはしかし
時とともに
頭の方のそのかたちを忘れ
今のかたちを明日には忘れ
気がつかない
ひらきかけている花弁に
ほどけてただよう香に
あきらかな変化に
その兆しに
日々 無視されていると
嘆きつつ実は
無視していることに
実がなることだけを
念じつつ自ら
むしり取ることに
矛盾がない
其方らは虫であり
萼にぶら下がって
風が吹くと揺れる
蕾はいつかひらく
虫をはらい落とし
三月も経てば
花弁の縁がのぞく
くしゃくしゃなのか
ゆるやかに伸びるか
春雨の降るのに
うつむいているのか
雲の光に
首をもたげるのか
時そのものが
時に依存し
時とともにのみ
花ひらく
秘すれば花
花芯には
小さな玉が詰まって
どちらかへ転がる
いずれにせよ
三月も経てば
花弁の縁がのぞく
花芯にはふたたび
小さな玉が詰まって
三週間経つと
とりどりの葉群れが
あらわれては消える
小花を散らして
其方らはそこに
花束のモチーフを見よ
誰か捧げ持って
大いなるものから
時をつかさどるものへ
秘密を囁き
手渡す
その手から恩恵が滴る
あわれな其方らには
はじめての覚醒が
秘密と恩恵が
背中合わせの双子であることを
深い秘密には
深い恩恵があることを
ときに深すぎて
気づかなかったのは
その恩恵であり
秘密そのものであったことを
すなわち
秘密とは深さそのものであることを
だからそこへ向かう
階段に立ち
一歩手前の段差をはかる
それだけが納得させる
達成と満足を
なぜならば数字だけが
他者を説得する
自己の優越を
ジャンケンしては
上がって下りて
パ イ ナ ツ プ ル
一個四百円の
ジャンケンホイ
甘さにまぎれ
チ ヨ コ レ イ ト
おしゃべりにまぎれて
秘密は閉ざされる
* 連作詩篇『Currency』は毎月09日に更新されます。
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