連載翻訳小説 e.e.カミングズ著/星隆弘訳『伽藍』(第15回)をアップしましたぁ。『第四章 新入り』です。カミングズさん、いよいよ巨大な部屋に閉じ込められました。スパイの嫌疑をかけられたわけですが、アメリカ人にとっては重罪です。機密情報を漏らしたり売ったりしても日本なら情報漏洩罪等々で済みますが、アメリカでは国家反逆罪に問われる可能性があります。愛国心というか、国家への忠誠心規定が日本とは違うんですね。
カミングズの同時代人で、マジで国家反逆罪に問われた詩人にエズラ・パウンドがいます。このお方、資本主義社会の悪の根源は利子だという考えにとりつかれ、反ユダヤ主義といふか反ユダヤ金融に傾いていって、イタリアのムッソリーニ政権に加担しちゃったんですね。んでイタリアのラジオ局から反米放送をしちゃった。といっても聞いた人によると、何を言ってるのかよくわからなかったそうですが。終戦と同時に拘留され、裁判にかけられたんですが、精神障害を認定されて精神病院に入れられてしまった。12年間精神病院に軟禁された後、娘のいるイタリアに渡りました。アメリカ人で反逆罪の嫌疑をかけられた人が、アメリカに住み続けることはできなかったんですね。
カミングズのスパイ容疑は嫌疑だけで終わりましたが、彼が平和主義者で公権力に対して憎しみと反発を感じていたのは確かです。ただ公然と政治的発言や行動に走ることはしませんでした。もっとささやかな場所で、誰からも脅かされることのない精神の砦を作っていった。根っからの芸術家だったと言えるでしょうね。それは一次大戦の経験を書いた『伽藍』も同様です。現実の戦争が出てこない精神の戦争の小説なのです。
■ e.e.カミングズ著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』『第四章 新入り』(第15回)縦書版 ■
■ e.e.カミングズ著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』『第四章 新入り』(第15回)横書版 ■
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■