セシルのもくろみ
フジテレビ
木曜 22:00~
数字がだいぶひどいらしい。真木よう子主演で、だ。あり得ない。なぜだ、ということでチェックした。いくらフジテレビが低迷しているといっても。もっとも、問題なのは数字ではない。良作だが数字を稼げない、というものはいくらでもある。そうであるなら玄人スジからの評価は高かったりするが。
真木よう子は、贔屓にしているせいもあるだろうが、特に問題ないように思える。相変わらず、なんとなく目を離せない。ただ今回、それがやや危なっかしい、冷や冷やするという意味で目を離せない、という感はある。しかしそれとて首を傾げるのは彼女の演技にではなく、企画や脚本の方だ。真木よう子の芝居がまずいと言うなら、誰がどのように演ればよかったと言うのか。
企画としては、ハズしようのない王道路線として通ったものではないだろうか。往々にして、そういうのに限ってコケると言われる。ストーリーは、ガサツな主婦がファッション誌の読者モデルとなり、強く美しく変身してゆく、というものだ。キャストは豪華、舞台は華やか、そしてひと昔前の業界モノと違い、子持ちの主婦をもターゲットとする。
積算すれば、企画会議では高得点が得られそうだ。が、視聴者は点数を付けながら観ているわけではない。自分の琴線に触れるか、触れないか。昔のフジテレビが得意とした華やかな業界トレンディドラマは、今の若い人たちに届かない。彼らは生まれてこのかた、ずっと不景気だったのだ。そして主婦たちはといえば、奇しくも女主人公の言うとおり、そんな世界のことなど、自分の幸せとはなんの関係もない。
すなわち最近のフジテレビの、なにもかも揃っているのだが、誰に観せるつもりかわからない、という低迷パターンだ。真木よう子が演じるのは、一般的なガサツな主婦というより、奇妙でかわいい、野生の動物みたいな女だ。これに夫と子供がいるというのは本当のところ、そぐわない。最初から素直にただの『マイ・フェア・レディ』である方が、真木よう子のあり様に説得力が加わるだろう。
それでは真木よう子でなければ、どうか。このドラマは少なくとも冒頭、まったく観ていられないほど退屈になる。冷や冷やしながらでも観ていられるのは、真木よう子だからだ。確かに痩せすぎ、目がギョロギョロして貧相だ。が、そこを責めるのは見当違いだ。金欠の貧相な主婦が豊かに美しくなる、というラインを引く以外、脚本の解釈は不可能だろう。
このドラマには原作がある。小説作品のドラマ化の難しいところで、事件が起きてドラマが動いてくるまで時間がかかる。そこまで引っ張るのは、もっぱら主演俳優の魅力ということになる。リアリティがなかろうと、主婦だというなら主婦のまま、真木よう子が飛び跳ねるしかない。最初からそういう設定・脚本だということだ。
ドラマは普通、最初の期待値が高く、徐々にストーリーが見えてしまうなどして、数字が落ちてゆく。これだけの豪華キャストで、しょっぱなからの低い数字というのは誰もが理解に苦しむ。ストーリーの展開以前に問題があるのは明らかだが、主演の容姿が美しくない、なんてのは原因ではない。これから美しくなるのだろうが、さてそれを期待し、ワクワクすべき視聴者を設定する企画段階の問題なのははっきりしている。
山際恭子
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