小松剛生さんの連載ショートショート小説『僕が詩人になれない108の理由あるいは僕が東京ヤクルトスワローズファンになったわけ』『第013回 悪魔のいる風景/存在感と喪失感のクリームパスタ/フランス文学の喪失』をアップしましたぁ。クリスマスイブにふさわしいコンテンツですねぇ。喪失感がテーマの作品が多いのですが、絶望にはいたらず、なんとなくそんなものだよなぁと思わせてしまうところが小松さんの作品にはあります。不思議な読後感ですね。
ある日、彼女が仕事から帰ってくるとテーブルの上に一枚のメモ書きがあり、見覚えのある筆跡がしたためられていた。
あいかわらず。
――汚い字だ。
一瞬、思考が止まった。
字を見ただけで誰の置き手紙だかわかってしまう自分に嫌気が差したのだ。ニワさんはペラ一枚に書かれた文字の内容に集中することで自分の思考を働かせてみようと目を凝らした。
そこにはこう書かれてあった。
「水星に行ってきます」
文学君の残したメモにはそのように書かれてあった。
思考は止まったままだった。
(『フランス文学の喪失』より)
石川はやっぱり『疑問拾い工シリーズ』がお気に入りかな。女性主人公と文学君の淡い交流を描いている連作短編なのですが、いつまでも読み続けたい魅力があります。多くの短編の中に、こうやって飛び飛びに連作短編が入ってくるのは初めての試みかもしれません。続きが楽しみでありますぅ。