悪貨
WOWOW
日曜 22:00~(全5回)
通貨偽造の罪は重い。死刑がないだけで、殺人罪にも匹敵する。もちろん国によっては、しっかり死刑に処される。それは社会を不安に陥れ、国家を揺るがす危険がある犯罪だからで、その意味では経済テロと呼べるようなものだからだ、とよく説明されている。
それは必ずしも机上の屁理屈ではない。昔、テレビのニュースで、クレジットカードの偽造をした人が捕まったと流れ、それが知人の知人だと気づいたことがある。問題なのは、一生懸命にテレビを観ていたわけでもないのに、なんで気がついたのか、だ。ようは不安になったのだ。テレビのアナウンスが耳に入っただけで、イヤなことするな、とちょっと落ち着かなくなった。これが日本の人口の何分の一かに及ぶ落ち着かなさだとしたら、やっぱり大罪である。
もちろん殺人事件も人を不安にさせるが、その報道によって警戒レベルを高めるという効果もある。しかしこの手の事件は単に不安を煽り、クレジットカードの使用を控えさせたり、ひどくなれば経済を混乱させるだけで、何も生み出さない。
何も生み出さないのは経済、金銭そのものが幻想だからだ、と言うのは容易い。ならば人の生も幻想で埋め尽くされているのだ、ということだ。最大の幻想が国家だとしたら、そのことに気づかせるのが大罪に値するわけで、つまりは通貨偽造罪の重罪性はテロ同様に社会不安を煽るからではなく、国家権力を脅かすからだということになる。
それでこのドラマだが、そういう背景から期待される重みは、あまりない。まずキャスティングがポップというか、軽い。そもそも経済ドラマに出演させて絵になる俳優は、あまりいないのだが。このドラマだと、石橋蓮司には期待できるが、それは石橋蓮司だからであって、経済ドラマだからではない。経済ドラマには経済ドラマ特有の暗さがあるべきで、それを理解しているのは橋爪功。そして社会派ドラマ全般で佐藤浩市。あとはそれに邪魔にならないキャスティングをすべきだろう。
あの歌舞伎チックな「半沢直樹」の親友としては、及川ミッチーはよかったのだが、それが主役となると、重量的にどうかというのは前述の通りだ。黒木メイサは美人女優の中では顔が怖いので、考えた方だとは思うが、第一回の冒頭のアクションシーンは何なんだ。よく練習しましたーって感じで、そんなことのためのキャスティングだったのか、と。
通貨偽造をテーマにした「悪貨」というタイトルのドラマに、我々が期待する怖さは、うまく表現しきれていないようで残念だ。それはミッチーとメイサのちょいとホラーな顔つきのスチールでもないし、女だてらの飛び蹴りというのでも更にない。例えて言えば、橋爪功しか表現できない現実のやり切れなさ、それを骨の髄まで知った凄み、というものだ。
もちろん制作スタッフとて社会人だし、キャスティングのプロにとっては、そんなことは言わずもがなだろう。そうでなくては困る。たぶん、本格的なキャスティングをのせるだけのホンではなかった、ということに尽きるのであって、原作が社会人として働いたことのない作家であれば、その考える “ 社会 ” は、まあ、こんなもの、という判断に違いあるまいが。
田山了一
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■