ディア・シスター
フジテレビ
木曜 22:00~
このところダブル・ヒロインのドラマが多いと、そう言われればそうだ。そのなかでも姉妹ものという王道、正面突破のものは、意外と難しいように思う。テレビドラマで姉妹ものの傑作と言えば、大昔に「想い出にかわるまで」というのがあったはずだ。姉を今井美樹、妹を松下由樹が演じていた。
妹が姉の男を奪うというのはお決まりのパターンだったが、このドラマでの見どころ、不安定な厄介ちゃんはむしろ姉の方だった。婚約者(石田純一!)との間に微妙な齟齬を感じ、それが納得できない、乗り越えて結婚に踏み切れない。妹の方は、最初からあったその隙間に入り込み、溝を拡げただけだ。奔放と言えば奔放だが、よくある妹キャラとしてのフツーの奔放さである。
一種異様で目が離せなかったのは姉であり、彼女は男を奪われるといった外圧ではなく、常に自身の内面における微細なさざ波によって揺れ動いていた。彼女の視線の先には自身の内面しかなく、せいぜい婚約者の彼が映るのみである。肉体を使って彼を奪ったのがたまたま妹であっただけで、他の女性でも、またそんな女がいなくても、結末は同じだったろう。
ラストシーン、彼女を諦めきれない婚約者に復縁を迫られ、泣きじゃくりながら激しく迷い、歩道橋を駆け上がったり降りたりする、やや狂気じみた今井美樹の演技は記憶に値する。彼女はモデル出身の歌手であり、名女優というわけでもないから、結局このドラマは脚本家の内館牧子による、素の今井美樹に対する観察眼から生まれたのではないかと思われる。
つまり姉妹ものの傑作といいながら、「想い出にかわるまで」はヒロインがひたすら内面に埋没していますという物語ではあった。もちろんそんな純文学的な脚本ではテレビドラマにならないから、姉妹の間には、親も挟んだすったもんだが起きる。
ただ要するに、姉妹の対立関係を外在的に描く、男にもわかりやすく、一人の男の取り合いを軸とするのみでは、つまらないわけだ。それなら姉妹でなくても、単なる三角関係でいい。だとすれば姉妹ものはやはり、最終的にはその一人の男を乗り越え、姉妹であることの深いシンパシーを確認するか、姉妹いずれかの内面に埋没するしかないのだろう。
そしてこの二つは、実は同じことなのかもしれない。「ディア・シスター」の石原さとみ演じる妹は、姉の男を奪うようにみせて実際は、あるいは結果として男の裏を暴露し、姉に警告を発する。姉と妹は正反対で対立しつつ、「あなたは私」という自他の融合を果たしている。新しいドラマは、そのことに意識的である。
ところで、このドラマでの石原さとみのファッションが話題となっている。手当たり次第に羽織ったようでありながら、カジュアルで可愛い様子はそれだけで楽しい。が、よく観ると画面のあちこち、部屋のインテリア、レストランの厨房などのすべてが雑然としているようで、バランスがとれた素晴らしい美しさを示している。姉妹の葛藤は相対化されて、いまや一つの絵になっているようだ。
山際恭子
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■