金井純さんのBOOKレビュー『絵のある本のはなし』『No.021 けがれなきいたずら ホセマリア=サンチェスシルバ著』をアップしましたぁ。金井さんが書いておられるように、『この本は、児童書の形を取った宗教書』です。作者のサンチェスシルバは、母親から聞いたスペインの古い民間伝承を元に『けがれなきいたずら』を書いたやうです。
修道士たちに拾われた孤児の少年が、教会の屋根裏部屋にあったキリストの磔刑像と会話を始める。その子は望みはなにかとキリストに聞かれ、『おかあさんに会いたい』と答えたので神の世界に移ることになったのです(現世では死)。神に選ばれることと少年の死という、2つの衝撃的事件を組み合わせた優れた宗教譚です。映画版の『汚れなき悪戯』ではさらに、修道士たちを追い出そうとする意地悪な村人が、奇跡が起こったことで宗教心を呼び覚まされるといふ展開になっています。
金井さんは、『世界を統御する神という極点(中心点)を持っている宗教・文化共同体では、物語を立体的に構築しやすい。・・・そのため日本語で書かれた近現代の童話は、キリスト教的世界観を援用している作品が多い。・・・日本と欧米の基本的な宗教・文化的精神構造の違いは、それぞれの文化に属する作家たちに大きな影響を与えている。正統キリスト教譚である『けがれなきいたずら』を読むことは、東西の文化的差異を考えるきっかけになるのではないかと思う』と書いておられます。不肖・石川も同感です。
これは文学的に非常に高いレベルの話ですが、石川はどうしても梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』を思い起こしてしまいます。魔女のおばあさんを持つクォーターの少女のお話です。宗教的要素は薄いですが、この小説は明らかにヨーロッパ小説の構造を持っています。しかし作家が純日本的な設定でファンタジー小説を書くと、『西の魔女』のような透明感ある表現にならないのです。西と東では、そう簡単に乗り越えられない文化的相違があるなぁと感じでしまふのであります。
文学金魚の批評陣の間では、『怪』や『幽』といったホラー系の小説雑誌の評価が高いですが、石川が読んでいても、日本のホラーは地に足が着いているなぁと感じます。SFはもちろん、多くのファンタジー小説は、どーも舶来物といふ雰囲気です。もちろん日本は海外から様々な文化を取り入れることでその文化的基層を厚みのあるものにしてきました。でも考えてみれば、欧米文化を真正面から受け入れるようになった明治維新から、ほんの150年ほどしか経っていません。まだまだ考え、新たに実践すべき事柄は多いやうです。
■ 金井純 BOOKレビュー『絵のある本のはなし』『No.021 けがれなきいたずら ホセマリア=サンチェスシルバ著』 ■