水野翼さんの文芸誌時評 『 No.010 小説 野性時代 第 117 号 ( 2013 年 08 月号) 』 をアップしましたぁ。筒井康隆さんへのロングインタビューを取り上げておられます。筒井さんはこのところ 『聖痕』 と 『偽文士日録』 を立て続けに出版されています。日本を代表する作家の一人なのですが、文学界での筒井さんの評価が微妙だったのは衆知の通りです。結果として筒井さんは直木賞も芥川賞も受賞されていない。賞は現世の巡り合わせとはいえ、筒井さんや村上春樹さんが、日本を代表する小説賞を受賞されていないことは、やはり記憶に残ってしまいますね。
そこのところを水野さんは、『どのジャンルにも組み入れようのない作家をとりあえず SF という範疇に入れておこう、というのが日本における SF の実態だった時代が続いていたのではないか。なぜなら今なら、筒井康隆の実験的な、ジャンルの境そのものを問う試みはまさに 「純文学」 と捉えられるからだ』 と書いておられます。筒井さんが大衆文学や純文学、あるいは時代小説、SF などにジャンル分けしにくい作品を書いておられるのは確かだと思います。基本、サービス精神旺盛な作家であり、純文学をおちょくる作品も書いておられるのは筒井ファンならよく知っていることでもあります (笑)。
世の中のどんな業界にも 〝制度〟 はあります。業界内で出世するためには制度に従順である必要がある。決められたコースを、耐えがたきを耐えながら粛々と歩んでいくわけです (笑)。このコースを辿れば、会社で言うと課長や部長クラスまでは比較的順調に出世できる。しかしそういう人はなかなか社長にはなれない。社長はトップですから、時には制度を変化させ、破壊するような見識が必要になるからです。自分が守ってきた制度を死守しようとする人たちがトップに立つと、業界は必然的に衰微します。
詩や小説を問わず文学業界は、トップ人事に問題があるのではないかと感じることがしばしばあります。制度に従順な作家が大半を占めるようになってしまった。しかしトップだけが硬直することはあり得ない。作家の卵も似たり寄ったりだから業界全体が衰退する。不肖・石川は、結局のところ制度内に取り込まれていく制度内反体制作家を掃いて捨てるほど見て来ました。制度を仮想敵にするなどくだらない。新たな視点・拠点から優れた作家を輩出することが、現実制度を超克する一番の早道です。制度の強さを知っている業界人からは 〝無理だろうけど、せいぜい頑張って〟 と優しく励まされているんですけんど (笑)。
■ 水野翼 文芸誌時評 『 No.010 小説 野性時代 第 117 号 ( 2013 年 08 月号) 』 ■