谷輪洋一さんの文芸誌時評 『No.005 小説 野性時代 第109号(2012年12月号)』 をアップしましたぁ。『ミステリと現実の交差点』 という特集が組まれています。ミステリ小説って時代を写す鏡ですよねぇ。谷輪さんは三浦和義さんの 『疑惑の銃弾』 事件を取り上げておられますが、実に戦後的な展開でありました。三浦さんの死の真相は未だに藪の中ですが、自殺を選ぶ方とは思えないので、谷輪さんが書いておられるように、『アメリカとの最初と最期の関わり方を見るかぎり、超戦後的ではある』 かもしれません。
これもよく知られていることですが、三浦氏は女優でプロデューサーだった水の江瀧子さんの甥っ子です。水の江さんは強く否定されましたが、三浦氏は水の江さんの隠し子ではないかという説もありました。水の江さんは三浦氏のロス事件をきっかけに芸能界を引退されたので、そういう噂が立ってしまったのでしょうね。
水の江さんは戦前から戦後の芸能界の超大物であります。もちろん犯罪とは無縁のお方ですが、その人生の奥行きは、もしかすると三浦氏よりも遙かに深いかもしれません。戦後の芸能界の光と影が集約されたようなお方です。女性では最大級の芸能界のフィクサーだったのではないでしょうか。
いつの時代にも現実世界には光と影があり、影には人間個人の闇と、権力の闇とでもいうべきものがあると思います。個人の闇は描きやすいですが、権力の闇は、たいていは沈黙に包まれているので描きにくいですね。甥と伯母というだけで深い関係はないのでしょうが、三浦さんと水の江さんの人生は、奇しくも個だけでなく権力の闇をも含むものだったような気がしますぅ。
■ 谷輪洋一 文芸誌時評 『No.005 小説 野性時代 第109号(2012年12月号)』 ■