リーガルハイ2
フジテレビ
水曜 10:00~
堺雅人の当たり役である。現在は第二シーズンが放映中だが、この第一シーズンを観た原作者の池井戸潤がドラマ『半沢直樹』の主役に指名したということが知られている。
知られているのだが、それはやっぱりよくわからない。「リーガルハイ」の主人公、弁護士の古美門研介のキャラは半沢直樹とはまるで別人で、どうして起用しようと思ったのか…。
とはいえ『リーガルハイ』の第二シーズンは『半沢直樹』効果からか、初回の視聴率は『半沢直樹』の初回を超えたという。めでたいことだ。それというのも、見始めれば『リーガルハイ』はなかなか秀作である。半沢直樹の面影を追ったかもしれない視聴者をいい意味で、思いっきり裏切っている。それは半沢直樹ではなく、古美門研介でもなく、「俳優・堺雅人」を強く印象付ける。
実際、『リーガルハイ』はほとんど堺雅人の独り舞台だ。新垣結衣に小雪、小池栄子、岡田将生、生瀬勝久に里見浩太朗と豪華キャストなのだが、視聴者の視線は堺雅人に釘付けで、次にどんなおかしな言動をとるかということを待ち続けている。これは『半沢直樹』であらゆる俳優がトクをしたように見えたことと、対象的だ。
堺雅人はとんでもない長台詞をほとんどミスなくやってのけているそうだが、アドリブは加えていないらしい。キャラ作りに大きく関与しているのは、動作の部分だということである。他の俳優たちが他の芝居をしているときでも、堺雅人の古美門研介はその脇で、意味不明の暴れ方をしているときがあり、ついそちらを注視してしまう。
それはまったくもって「子供」のお構いなしで、「五歳児の言動をもとに作り上げた」という、あの『ミスター・ビーン』を思わせる。つまりは古美門研介の社会的倫理感の欠片もない、狂ったようなあり様とは、「子供」のものだ。子供は動物などと同様に、視聴者の視線を問答無用で惹きつける。
『リーガルハイ』が破天荒な子供の魅力で見せているものなら当然、社会派の法律家ものとは違う。掃いて捨てるほどあるその手のドラマの、むしろパロディであり、したがって古美門研介を取り囲むものは従来の社会的価値を象徴する人々である。出身である大事務所の所長とその色っぽい秘書、ラブ&ピースをモットーとする若い弁護士たち、そして古美門に「朝ドラのヒロイン」と罵られる、正義感に溢れた見習い弁護士などだが、彼らは欲望剥き出しの子供である古美門研介に手を焼き、その術中にはまり、常にしてやられる役回りである。古美門を上から操ることができそうなのは、古美門事務所にいる万能事務員と絶世の美女死刑囚という “ 子供にとっての謎 ” をはらませた存在だけだ。
マンガに過ぎないと言えば、その通りである。ただ、安っぽいマンガほど簡単に社会に迎合し、きいたふうなことを言い出す。視聴者が息をのんで観てしまうのは、正気と思えないような堺雅人の言動のせいばかりではない。いつかこのドラマが、社会の凡庸な価値観と折り合ってしまいやしないかと、ハラハラしているからでもある。
山際恭子
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■