一.ケブ・モ
漫才における古典的/定番フレーズ、「十二月になったらどれだけ暑くなるんでしょうね」が、シャレにならなくなりそうな気候。秋ってこんなんだっけな。涼しくなったら存分に呑み歩こう。そんな無邪気な目論見にも影が射す。無論、だからといって家呑みばかりでは心身に悪影響が出るのは確実。なので多少の暑さは我慢して久々に神田界隈へ。まず目指すのは駅前の回転寿司「E」。近所に数店舗ある中から「本店」をチョイス。目当ては呑兵衛用の「ほろ酔いセット」。巷の回転寿司店によくあるアレ。ただなかなか期待を上回らない。写真の方が立派で美味しそう、なんて経験あるある。もちろん此方はそんな心配御無用。酒の種類によって三種類あるコースから、一番廉価な600円代の酎ハイセットをチョイス。肴は刺身が二切れずつ三種類。身が厚く、添えられているのはワカメ。ねえ、言うことないじゃない。個人的好物のアラ煮をはじめ他の肴も充実しているが、それは次回のお楽しみ。そろそろ次のお店へ参ります。え、税込み価格? なるほど最後の着地まで完璧。
ある時期までブルース、またはブルースの影響を強く感じる音楽が苦手だった。例えばストーンズ、何ならビートルズの初期も。今はブルースにも各種あることを知り、その中から好みのものを見つけたりもするが、ちょっとまだ敷居が高いなという気持ちも正直ある。色々とトライをする中、最初に距離を縮めてくれたのは、名匠マーティン・スコセッシ監督総指揮による音楽ドキュメンタリー『THE BLUES』の関連作品、『マーティン・スコセッシのブルース』(’03)というアーティスト別全六タイトルのシリーズ。ロバート・ジョンソン、サン・ハウス等々ビッグネームが並ぶ中、一番ピンと来たのがケブ・モ。本名、ケヴィン・ルーズベルト・ムーア。元々はスティールパン奏者だったという。その名前のインパクト、そして楽曲のモダンさのおかげで、身構えることなく触れられた。「現代ブルース」の旗手/第一人者/重要人物……と紹介されることが多いが、珍しく期待を裏切らないパターン。いや、この場合は期待を「上回る」という言い方が適切。
【 Am I Wrong / Keb’ Mo’ 】
二.サザンオールスターズ
神田に来たなら、と次に向かったのは創業140年(!!)、老舗の蕎麦屋「M」。別店にはちょくちょく伺うが、此方は御無沙汰気味。昼飯時は過ぎていたが、店内はざっと九割の入り、年齢層はやや高め。コロナ以降、卓にはアクリル板が置かれるようになったが、基本的には以前と変わらず。オネエサンたちも忙しそう。大瓶と焼鳥をお願いして軽く姿勢を崩し、初めて訪れた時のことなど思い出す。当時は相席上等のルールに背筋を伸ばしつつ、硬めの蕎麦味噌を神妙な顔してひと舐め。今はようやく僅かばかり慣れ、まずは店内の様子を肴にちびちびと。改めて不思議だなあとは思う。それなりの価格はするが別に気取っても仕方ないし、最後は啜ってお勘定。通俗と脱俗、そのバランスが合った状態が多分「粋」ってヤツ。しかもなるべく一発で決めなきゃね。ああでもない、こうでもない、とモタモタ調整してちゃ締まらない――なんて考えていると焼鳥到着。既に大瓶は残り三分の一ほど。嗚呼、こりゃ粋じゃねえなあ。
キャリアは長いがそれだけではなく、いまだにヒット曲を産み現役感バリバリ。若かりし頃のヤンチャな楽曲も変わらぬテンションで奏で切り、支えるファン層は文字通り老若男女。桑田佳祐率いるサザンオールスターズは、国内唯一無二の怪物バンドだ。無論学生の頃は「ロック」として認識せず、興味の対象外。ただシングル曲はほとんど知っていて、何なら歌えるくらい馴染んでいた。思えば不思議な距離感。その凄みに気付くのは十数年前、バンド名の由来がサルサ音楽の中心グループ、ニューヨークのファニア・オールスターズと知った頃。確かにラテン系だったかも、とデビュー盤『熱い胸さわぎ』(’78)から総ざらい。道半ばで早々に怪物と認識するに至る。特に初期の数枚、中でも有名曲「いとしのエリー」を擁した二枚目『10ナンバーズ・からっと』(’79)はお気に入り。諸先輩からよく聞かされた「当時、短パンでテレビなんてありえないから」を裏付けるラフでスピーディーなプレイと、しっとりしたバラードのコントラストは期待以上に痛快。やはりメイン・ソングライターの桑田は「何を聴いても彼だと分かる」という点において怪物。カート・コバーン、そして小室哲哉も同じ意味で怪物だが、桑田は更にバリエーション豊富。そこにあの歌唱法だから、そりゃもう盤石、文句なし。
【思い過ごしも恋のうち / サザンオールスターズ】
三.スパンキー&アワ・ギャング
蕎麦湯とビールで膨れた腹をこなす為、九段下方面までテクテクと。あのカレー屋とか、その居酒屋とか、誘惑は多いけれど今はきっと無理。心を鬼にのんびり歩くこと二十分弱。ふと目に入ったのは大手スーパー「A」の酒専門店。トイレをお借りしようかと入店したところ、右手にカウンター発見。なんと呑める。ワイン二種に肴が付いて500円。酒も肴も選べるし税込。何も迷わず前金を支払い、泡と赤とオリーブを。ポスターの写真を超える満足感。もしやと尋ねると回数制限ナシ。では、と即コインを出す不粋さが恨めしい。
ソフトロックというジャンルに求めていたのは、ベタベタに甘いポップな楽曲。無理矢理たとえるなら、ジャクソン5をもっとキッズ向けにしたようなものが聴きたかった。ただ意外と望みは叶わず。そんな時、教えてもらったのが米国のスパンキー&アワ・ギャング。数枚あったアルバムの中から選んだのは三枚目『ウィズアウト・ライム・オア・リーズン』(‘69)。理由は単純。一番ジャケットが派手だったから。ジャケ写を超えることなんて滅多にないよな、と期待薄だったが実はこれが大当たり。一曲目からベタベタに甘い。ちなみにこのジャンル、本場米国では「サンシャイン・ポップ」と呼ぶらしい。とっても良いネーミング。
【 Leopard Skin Phones / Spanky & Our Gang 】
寅間心閑
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