第8回金魚屋新人賞受賞の松岡里奈さんの小説『スーパーヒーローズ』第13回をアップしましたぁ。この小説はまースリリングですね。ただそのスリリングさはすべて主人公の内面から起こる。私小説の形態を取っているから当然なのですが、私小説ではその抉り方の深さが問われます。
ふと自分の置かれた状況に気が付く。私はもう若くない。人生中に張り巡らされたプランに基づいて生きている人間たちが私の未来を握っている。
「準備が出来たら言ってね」
彼らは笑顔でそう言った。それは殆ど脅しに近かった。私はいつでも準備が出来ていると言いながら、決して聞こえないように呟いた。
「準備が出来る時はありません」・・・・・・
このプランを立てるという生き方を無視して生きているように見えるのは、私の知る限りではジョニーだけだった。
松岡里奈『スーパーヒーローズ』
こういった箇所が私小説の正念場になるでしょうね。私小説という小説形態は、ネタを元に書く小説とは決定的に違います。主人公はイノセンスの塊のようなジョニー少年に激しく惹かれます。ジョニーはプラトン的なイデアそのものだと言っていいでしょうね。しかしこのイデアは必ず崩れる。では主人公は本質的に何を希求しているのか。
場合によっては同じ題材を扱っても、何度も何度もそこに立ち戻り、底の底まで見ようとするのが私小説というものです。残酷なようですが私小説の主人公は絶対に地獄を見なければならない。その地獄の中で、普通の小説は希望や救済を設定して終わる。しかし本物の私小説ではそれは許されない。地獄の中に留まりそこに一筋でも光が射していれば良い。勇気を持って地獄に留まれるかどうかが、優れた私小説となんちゃって私小説を分けます。
■ 松岡里奈 連載小説『スーパーヒーローズ』(第13回)縦書版 ■
■ 松岡里奈 連載小説『スーパーヒーローズ』(第13回)横書版 ■
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