世界は変わりつつある。最初の変化はどこに現れるのか。社会か、経済か。しかし詩の想念こそがそれをいち早く捉え得る。直観によって。今、出現しているものはわずかだが、見紛うことはない。Currency。時の流れがかたちづくる、自然そのものに似た想念の流れ。抽象であり具象であるもの。詩でしか捉え得ない流れをもって、世界の見方を創出する。小原眞紀子の新・連作詩篇。
by 小原眞紀子
週
土曜は泥のように眠る
目覚めれば晴れた
果てしない空間に
週足が立っている
ゆるぎなく
日を従えて
月を仰いで
踏み出さんばかり
日曜には逃げる
カウンターバーから
落花生を盗み
広々した
パーキングへ
車もないのに
階段を通って
逃走の道
月曜は雨が降る
路上に
池に
雨が降っている
仕方がないから
支度をする
刃を砥ぎ
地図を開いて
火曜は燃えさかる
鉄火場に身をおき
なぜか涼しげ
ちょっと物憂げ
そんなあなたの
影は長く
どこまでも長く
国境を跨ぐ
水曜はそのまま
山頂にしゃがみ込む
上から下への
流れを読んで
冷やし素麺に一本
赤い線が混ざっている
掬おうとすると
そこに緑色のが
木曜にはボリュームが
足元から生えてくる
ボリュームなきところに
神は発生せず
ボリュームあるところに
世界はある
あなたと
わたしと
金曜に乾杯
界隈で一番の
タワーから見降ろす
街の灯りの増減が
囁くものがある
タクシーの運転手は
最も信頼のおける
指標である
あなたは振り返り
わたしに言った
この呆れるばかりの
くだらなさが大底か
もっとくだらぬ底があるか
わからない
俗世の底が割れるまで
あるいは這い上がり
しかし届かず
力尽き
だが底を割らずに
芽吹くときまで
日照りの土地に
撒いた種を
誰が見ていよう
遠い村の祭囃子に
気をとられることなく
あなたが
わたしが
人知れず
と言うには
ボリュームがあるが
誰も見ていない
祭囃子が聞こえる
この足元の
微かな胎動など
来週は、と
わたしは言う
いつもいつも
来週の話をする
来月は、と
あなたは言う
いつもいつも
週を束ねて
月に行く
to the Moon
それが我らの夢
階段を駆け上がる
あなたと
一歩ずつ踏み上がる
わたしと
転げ落ちながら
月面着陸する
* 連作詩篇『Currency』は毎月09日に更新されます。
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