安井で御座います。
皆さん、お久しぶりです。本当に久方ぶりですね。
皆さん、本日は初めてお会いする方も、いらっしゃいますが、あらかた顔見知りの方々が、沢山いらっしゃいます。
でも、お互いにその辺の街中でお会いすると、チト分からないくらいに、御覧の通り、私もすっかり老人になってしまいました。
でも、気持ちだけは昔日と変わらないつもりですので、本日は昔のままよろしくお願いします。
皆さん、今日は此の拙い会のために、お忙しい中、お出(いで)頂き、有難う御座いました。心より感謝、御礼を申し上げます。
ところで、皆さん、この度の書展、私にとっては、初めての催しですが、この書展のテーマを要約すれば、これは一体何だろう(?)と、ずうっと考え続けて参りました。
これは遊びなのか、いや違う。
プロバガンダなのか、いや違う。
結局、辿り着いた揚句のものは、これは〝夢〟なんだ、〝夢〟という一言に尽きるんだ、という結論に至りました。
カタログにも、チラと触れましたが、この度の書展は〝夢〟の中の出来事――というよりも、安井浩司の〝夢〟そのものという思いに至った次第です。
言葉を代えれば、私は俳人ですし、実は俳句そのものを書き続けるのが、私にとって最初で最後の、唯一の〝夢〟だったわけですが、その〝夢〟の幹から、ポーンと、小さな〝夢〟が初めて生まれたわけで、大変嬉しく思っています。
思えば、昨今の俳句の世界を見渡せば、言葉は悪いが、全く〝夢〟が萎縮しているというか、〝夢〟を感じさせる風景が殆ど見当らなくなりましたね。非常に残念な気が致します。
これからの俳句を背負う若い世代の皆さんは、己が〝夢〟とは何か、ここに真の〝夢〟を育てることが出来るのか、いや〝夢〟を生み出す〈幹〉そのものを在りようを、じっくりと考える必要があるのではないでしょうか。
今日は、私の畏敬する詩人の高橋睦郎さんが、わざわざ御参加頂き、有難とう御座いました。皆さんが充々、御承知のことと思いますが、敢えて申せば、高橋さんは夢作りの名人ですよね。大いなる詩の幹から、一つの夢を育てると、その幹から、またもう一つの夢を生み出す、いわば〝夢〟作りの名手です。
私なんか、もう高橋さんを真似ることは出来ませんが、己が俳句の幹から生まれたこの〝夢〟を、残り少ない時間ですが、大切にしたく思います。
これ以上は、もう難しいことは申しません。
今夜は、皆さん、リラックスして、心ゆくまで歓談致しましょう。
本当に有り難う御座いました。
頓首
安井浩司
平成二十四年十月八日
* 本稿は平成24年10月8日、午後6時より銀座東武ホテル・B1Fロジェドールで行われた『安井浩司「俳句と書」展を祝う会』の、安井浩司氏『御挨拶』下書き原稿の再録です。
■安井氏の唯一のお弟子さんである豊口陽子さんの花束贈呈■
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■