世界は変わりつつある。最初の変化はどこに現れるのか。社会か、経済か。しかし詩の想念こそがそれをいち早く捉え得る。直観によって。今、出現しているものはわずかだが、見紛うことはない。Currency。時の流れがかたちづくる、自然そのものに似た想念の流れ。抽象であり具象であるもの。詩でしか捉え得ない流れをもって、世界の見方を創出する。小原眞紀子の新・連作詩篇。
by 小原眞紀子
祈
庭を掃く
あとからあとから
降り敷く枯葉を
それは何なのか
何の仕事なのか
翌日にはまた
庭を掃く
数を書き込む
一枚一枚
紙をめくって
それは何なのか
何の仕事なのか
三年後には
処分に困る
あらゆる仕事は
空しいものである
空しいから
続けてある
いつもそこに
絶望とともに
時が過ぎること
それだけがたしかで
あらゆる仕事は
満たされることなく
どんな成果も
流れ去るが
ただ時は
満たされていく
人はそれを
祈りと呼ぶ
あるとき
王が納屋にいて
蹄鉄を打つ
(という物語があった
なぜ人は
腕を上げたり
ずっと下手だったり
様々なのか
王の心は
領地をさまよい
馬が駆け抜ける
王の蹄鉄は
四つとも異なる
(だんだん上手くなって
輝く石を嵌めた
五つ目は扉に
下げるがよい
幸運を祈る
来客のために
扉を開けることは
(本を閉じること
はるばると冷えた
地球に降り注ぐ
陽射しに目を細めて
仕事に出かける
あるいは
仕事をやめて出かける
それは同じことと
誰かささやく
神の生誕の日
だからそこにいる
神はたしかに
あそこにもいた
主婦に人気の料理店の
ランチメニューに隠れ
炭酸水を啜っていた
土曜には書類仕事がなくて
庭掃除を終えて
ちょっと疲れてたけど
思い切って尋ねた
普段は何をしているのですか
我々はいずれ空しく
多くの仕事は空しく
時は駆け抜ける
馬のように
我々はそれを見送り
また仕事に勤しむ
下手だろうと
上手かろうと
時を過ごす術は他になく
仕事の空しさを
祈りと呼び
すべてを諦める
炭酸水を飲みながら
神は毎日
リズムを刻んでいる
色とりどりの糸を繰り
結構忙しいという
地球の隅々まで
行き渡らせるのに
よくANAを利用するが
増資しても苦しく
底値の海に溺れる
西の方から
糸巻きを投げると
繰り人形のように
空港で客が踊り
投資家は祈る
CAが踵を鳴らしている
* 連作詩篇『Currency』は毎月09日に更新されます。
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