第06回金魚屋新人賞授賞の、片島麦子さんの連載小説『ふうらり、ゆれる』(第05回)をアップしましたぁ。古羊さんは早くも社会人になってOL生活です。女性としても成熟してデートにも誘われます。でもでもなのですが(笑)。
「ほんとにさ、ちょっと外してみてよ」
ぱちん。
触れる直前に開いた手のひらと、それを払った古羊さんの手の甲があたって音を立てた。空気の入った丸いモノが弾けるような小気味よい音だった。それはたぶん二人が出会ってから、一番息の合った瞬間であったに違いない。完全な拒絶に遭った彼は、びっくりしたハムスターのような瞳をさらにびっくり丸くしながら、面喰った様子で訊ねた。
「もしかして、俺……僕のこと、嫌いですか」
急にしゅんとなって、テーブルの下に両手をしまい込んだ。叱られた子どもみたいだった。
判らない、と古羊さんは思い、いえいえそんな、とは口に出さなかった。その代わり、勝手に口が動いていた。
そうかもしれません。
(片島麦子『ふうらり、ゆれる』)
古羊さんは小松さんか吉田さんのどちらかとデートします。主体性がないようでいて、男の人がズカズカと自分の領域に入り込もうとすると、文字通り「ぱちん」と手を払って撃退してしまう。こういう女性っているなぁという描写です。というか女性にはこういった面があると言ってもいいかもしれません。
存在自体が過不足なく自律していますが、それでいてある種の空虚を抱えているのが女性性というものかもしれません。これが生物学的な性差のせいなのか、社会学的ジェンダーのゆえなのかはどーでもよろしい。見事に描き出せるかどうかが小説のレベルを決めます。片島さんは古羊さん的女性に共感できる感性をお持ちなのでしょうが、それを相対化できる知性があるから『ふうらり、ゆれる』のような冷たくも温かい作品が書けるのです。
■ 片島麦子 連載小説『ふうらり、ゆれる』(第05回)縦書版 ■
■ 片島麦子 連載小説『ふうらり、ゆれる』(第05回)横書版 ■
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