金魚屋から『佐藤くん、大好き』を好評発売中の原里実さんの連作短編小説『子犬のワルツ』(前編)をアップしました。SF的な設定ですが、サスペンス調の作品でもあります。アイデンティティの揺らぎは原さんという作家の大きな特徴の一つです。存在の足元が揺らいでしまうような不安があるからこそ、『佐藤くん、大好き』のような直球ど真ん中の作品も生まれるわけです。
人間は本質的に孤独で弱いですから、絶対的に愛してくれる他者を必要としているところがあります。親がまずそういった存在として現れるわけで、多くの人が幼年時代を懐かしがる理由がそこにあります。ただ成長してゆくと当然親離れする。社会の中の個人=孤独な人として愛する人を見つけるか、愛してくれる人と出会わなければなりません。
原さんの小説にはそういった人間存在の孤独と人間同士の愛が、鮮やかに表現されています。今回の『子犬のワルツ』でも博士は絶対的に愛してくれる人ですが、主人公のわたしとはすれ違う。博士は一種の親であり、わたしは愛されるだけでなく愛する人でありたいわけですから当然です。しかし愛する人はどこにいるのか? さらなる人間の孤独が描き出されます。
単行本の『佐藤くん、大好き』で言えば、『レプリカ』『水出先生』『家』などが、すれ違う愛の物語です。単純な恋愛物語ではありません。人間存在の本質に直結する愛の主題を描いた作品です。だから原さんの『佐藤くん、大好き』は純文学でもあるわけです。
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