純文学エンターテイメント作家、遠藤徹さんの連載小説『ゆめのかよひじ』(第12回)をアップしましたぁ。『マリー・ゾンペンブルグ?』篇です。主人公の女の子はようやく〝いつわりのまじょ〟と対面するのですが、彼女が素直に名乗るはずもなく、『マリー・ゾンペンブルグとぉもうしますわぁ』と自己紹介するのです。
「で、おいくつなのぉ?」
「え? あたしはろくさいですけど」
「ちがうわよぉ。あなたのことなんかきいてないわぁ」
きふじんは、あたしのにぶさにすこしいらついたようでした。
「ああ、おうじさまですね」
なんてくいつきがいいのかしら、とあたしはすこしあきれました。がつがつするにもほどがあります。
「たしか、じゅうろくさいだとか」
「じゅうろくぅ?」
ちぇっ、しくじったな、というかんじでしたうちしたきふじんでした。(中略)
でも、さすがはまじょです。くじゃくのもようのせんすを、ひとふりふたふりするうちに、じょじょにけはいがかわっていくのでした。じぶんをしゅうせいするまほうのようでした。みるまにせたけもちぢんで、かおもおさなくなって、じゅうろくしちにしかみえない、かわいいむすめにへんしんしていたからです。
(遠藤徹『ゆめのかよひじ』)
『ゆめのかよひじ』に登場する人物たちは、たいていは超のつく自己中です。自分の利益しか考えていない。その中で主人公の女の子とお父さんだけが利他的精神を持っています。ただそれは、吹けば飛ぶようなマイナーな精神性として描かれています。
この描き方には、世界は基本的に人間のエゴイズムで満ちているという作家の認識があるでしょうね。またそれが現実世界の様態であったとしても、作品にはそれを乗り越えなければならないという作家の高次の精神がこめられていると思います。『ゆめのかよひじ』は思想小説でもあるのです。
■ 遠藤徹 連載小説 『ゆめのかよひじ』(第12回) 縦書版 ■
■ 遠藤徹 連載小説 『ゆめのかよひじ』(第12回) 横書版 ■
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