一.Pファンク・オールスターズ
さあ、新年あけました。もう、あけちゃった。畜生、あけやがって。人それぞれ感じ方は色々、国によっちゃ時差もあるけど、あけない人はいない。即ち、この世に明けぬ夜は無し――。わざわざ「一月~は、正月~で」と歌うまでもない。元々この時期、何かとめでたく酒臭い。
私にとって、めでたさは非日常の昂揚感。そんな酒を、と高田馬場のやきとん「M」へ。此処、好みの味。平たく言えば、超旨い。全16種、どれもいけるが、ナンコツ/キク(腸廻り)/ピートロ(首ネック)辺りがたまらない。サイドメニューも豊富。生野菜も刺身もあるけど、まあ追いつかない。だって串で手一杯。全16種、どれも百円しないんだもの。
大抵の店では塩・タレの判断を「おまかせ」するけど、ここではタレ。16種をドボンと浸す野蛮さに酔う。もちろんタレの味自体が好き。で、そういう店は貴重。
いつもは開店直後に入ってカウンターの端。まずはチューハイ。もちろんムードはのんびりゆったり。これが夜になると様相は一変。店内、客で埋め尽くされる。方々から揚がる微笑、談笑、哄笑、注文、催促。椅子席なので左右にうねる。横文字ならroll。
そんな昂ぶりを耳から味わいたいなら「Pファンク」。ざっくり言えば、主要メンバーを一にする二大ファンクバンド、パーラメントとファンカデリックの総称。軍団、と呼んでもOK。スタジオ録音盤はともかく、ライヴ盤の名義は気にしない。多分、本人たちも気にしてない。
どっぷりうねりたいなら、やはりライヴ盤。20人近いメンバーで四時間以上の宴。演者は強者ばかり。統制されてはいるが、はみ出しちゃうのがライヴの肝。で、その肝が何とも旨い。
名盤「Pファンク・アース・ツアー」(‘77)は、流れを断ち切る構成なのが玉に瑕。満喫するなら1983年の「ライヴ・イン・ハリウッド」。100分弱の二枚組が本当にあっという間。どこを聴いてもうねってる。
【 (Not Just) Knee Deep / P-Funk All Stars 】
二.アメリカン・グラフィティ
めでたい酒は好きだけど、宴会は嫌い。宴会芸、痛々しいし。昔はオールディーズを同類と見做してた。ビートルズやストーンズの「初期」は苦手、ピストルズのカヴァーも意味不明。「今」の音楽のダウングレード版。そんな風に毛嫌いしてた。本当は骨組みそのものなのに。私は長らく理科室の骨格標本を怖がるガキだった。
だからオールディーズ・ナンバーが詰まった、映画「アメリカン・グラフィティ」(’73)のサントラ盤もピンとこない。長らく放っぽらかしていた。刺さったのは数年前。ジャズ/ブルース/ゴスペル/その他諸々が、ポップスとして結実した瞬間、その躍動感を聴き取れた。「アメグラ」のサントラ(二枚組!)は、まるでジュークボックス。逸品も連続すると、どこかチープに、そして猥雑になる。
肉じゃが、湯豆腐、筑前煮。奇を衒わない肴を少しずつ食べれるのは嬉しい。神田ガード下の立呑み「A」なら大抵2~300円。うん、チープでめでたい。
元々使ってたのは御徒町の本店。一階(立ち)より二階(座り)が先にオープンする不思議さと、階段を昇って扉を開ける時の緊張感がたまらない。今は移転して健康的になっちゃったけど。
そして此処、神田店にはまた別の趣きがある。大半は仕事終わりの背広組。呑兵衛に優しい定食屋で「小鉢を肴」もいいけれど、通勤ラッシュさながらの混雑をかき分け、立ったままカウンターに並んだ一品/逸品をピックアップする疾走感たるや。しかも酒はプラカップ、皿代わりにポリ容器、食べ呑み終えたらゴミ箱に捨てるだけ。後腐れナシ。心はもはや次の店。
【 At The Hop / Flash Cadillac & The Continental Kids 】
三.清竜人25
清竜人25は、シンガーソングライター清竜人率いるアイドルユニット。メンバーの女性たちは全員夫人、という一夫多妻制の設定。メディアでもそこばかり弄られていた。けど、設定はあくまでも装置。装置の見事さを讃えるより、その結果もたらされた美しい結果を聴かないと。
マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル、ジョン・トラボルタ&オリビア・ニュートン・ジョン、小川知子 with 谷村新司、バービーボーイズ……。数多あるデュエットの色気ある掛け合いを、昂揚感たっぷりにデフォルメした濃密な楽曲。非日常な設定があるからこそ、抵抗なく乗っかれる。
懇意な店はどこか面倒くさい。大抵のことがバレてやがる。もちろん内輪で呑むのは楽。でも、そればかりじゃ胃がもたれちゃう。だから一人で呑む時はタガを外してみる。自己のプチ解放。誰かのふりはダメ。本末転倒。他人を装えば、タガはまた締まる。
椅子はいらない。いざとなったら動く。安全な方へ、面白い方へ。何かの弾みでコミュニケーションが始まる、かもしれない。始まってもすぐ終わる、かもしれない。そもそも何も始まらない、かもしれない。でも、そんな積み重ねがタガを緩ませる。これは確実。
個人的には、日本語に頼れない場所がベター。たとえば渋谷の立呑み「T」。常連風や観光客風、いつからか外国人が多い。
最近呑むのは生シードル。コンビニでも買えるタイプだけど、やはり生は旨い。何杯でもいけちゃう。呑んで呑んで呑んで、気付けば会話中。相手はガイドブック片手の御客様。ようこそ日本へ。もちろん、得意のブロークン・ボディ・ランゲージでおもてなし。さあ、装置が作動した。国籍不要、肩書き不要、名前も不要。何者でもなくなる、束の間の非日常が心地いい。結果、私も負けずと旅行者だ。昂ぶる夜に生シードルで乾杯。
【 Mr.PLAY BOY…? / 清竜人25 】
寅間心閑
* 『寅間心閑の肴的音楽評』は毎月10日掲載です。
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