露津まりいさんの新連載サスペンス小説『香獣』(第08回)をアップしましたぁ。今回は鋭い嗅覚を持つ青年・十樹と芙蓉子のフラグメンツ、それと十樹の異母兄の小宮路秀哉と芙蓉子のフラグメンツです。十樹さんの存在は魅力的ですね。彼はある権力(秘密)の中心にいながら、それを食い破ることができる人物のやうです。芙蓉子にとって必重要な情報源であり、危険な人物でもある。文字どおりなにかを嗅ぎとっているわけです。『香獣』のキーマンの一人と言えそうです。
小説文学は当たり前ですが現実社会を舞台(世界の枠組み)にします。ほんで現実社会の枠組みは強固です。そう簡単には揺らがないし、個人の力で壊すこともまずできない。ただ現実社会は様々な矛盾に満ちています。この矛盾もまた、いわば必要悪としての世界の歪みであるわけですが、臨界に達すると崩壊し少しだけ世界が変わる。詩などよりも制約が多く息苦しい小説文学は、常にこの世界の変容とともにあると言うことができます。
小説の主人公は入り組んだ強固でもある現実社会の関係性の中にいて、それに変化をもたらすことができる人間です。現実社会はまだまだ男性社会ですから、女性の主人公はそれをなすのにうってつけの存在です。松本清張が好んで使った方法ですが、銀座のバーの女が政治家や財界人の懐にスッと入りこむ。そして彼らの世界を内側から食い破ってゆく。男なら数十年かけて築かねばならないポジションを、露骨に言うと一晩で得てしまうわけです。一度あるポジションを得ると、重要な情報などが向こうからやってくるようになる。
『香獣』の主人公・芙蓉子さんもそのような存在ですね。社会の闇に属する組織に所属して、表舞台の社会の歪みを探っている。それだけでなく、自分の雇い主である社会の闇組織をも相対化できる可能性を持っている。それは危険なことでもあるわけですが、十樹さんもまた社会と闇(社会以上または以下)のあわいに生きる青年のやうです。芙蓉子さんと十樹さんの関係、どーなるのか楽しみでありますぅ。
■ 露津まりい 連載サスペンス小説『香獣』(第08回) pdf 版 ■
■ 露津まりい 連載サスペンス小説『香獣』(第08回) テキスト版 ■