上沼恵美子のおしゃべりクッキング
テレビ朝日系列
月~金曜 13:05~
「金子信雄の楽しい夕食」を引き継いで、1995年からの超長寿番組である。もちろん料理番組はいったいに長くて、放送終了といってもリニューアルという場合が多いのだが。
本当に、金子信雄のように亡くなりでもしないかぎり、やめる理由は見つかりそうもない。人は生きている間は何かを摂取するわけで、超絶うまい介護食、あるいは胃に直接注入する栄養液のレシピだって、三度三度の関心事ではある。大変な話題作になることはなくとも、視聴率もまた見込める。
料理番組の話題作といえばあの「料理の鉄人」、あるいはドラマ仕立ての「美味しんぼ」など、必ず対決色が打ち出される。ドラマそのものの「チャングムの誓い」もまた全編、陰謀と対決の嵐であった。あ、料理番組じゃないか。とにかく敵対心による盛り上がりと、料理の呑気な常同性という組み合わせは必然的なものではある。しかしそれは本当に長く、たとえば十年を超えて続くものではない。
一方で、番組と番組の隙間の、ほとんど CM と見紛うクッキングコーナーはレシピを伝えるのみで、番組ではないだろう。料理番組は情報番組ではあるが、ニュースバラエティなどと同様にキャラクターによる味付けがされているものだ。かつての「世界の料理ショー」などのように世界中に配信され、各地への旅やホラ話といったものまで皿に盛ることもある。しかし料理番組に料理以外の夢を持ち込むのは、男性が主役である場合が多い。
「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」は、女性にとっては目の離せない、なんとなく観てしまう番組である。料理は日常の材料からかけ離れず、季節のイベントに乗っかりつつ、「簡単スピードメニュー」の週もある。そこへ上沼恵美子が「まさにレストランの味!」とワンランク上のコメントを挟むという、リズミカルな構成がみごとだ。もともとの上沼恵美子芸である主婦の大ボラ自慢話、しかし落としどころはプチ贅沢というところで主婦層の勘どころを押さえている。
ちょっぴり毒のある上沼恵美子のトークは、ゲストとのプチバトルを触発しそうに感じられるときもあり、料理番組の常同性にスパイスを与える。同じ芸風?である女医の西川先生のときは、けれども存外に穏やかに過ぎて、互いに常識人であることが露呈された。だいぶ前だが、料理には一家言ある川島なお美が料理人に向かって、「まあ先生、お上手」と口走り、「…先生はね、お上手なんです」と応えた上沼の間がよかった。すみません、と呟いた川島も間がよかった。
川島なお美に包丁さばきを褒められたのは当時の日本料理担当、畑耕一郎で、個人的にはその大ファンだったので、交代が惜しまれた。番組を観る頻度が減ってしまったことも確かである。余計なことをしない、滅多なものを使わない、なのに特別で、繰り返し作りたくなるレシピがいくつもあった。それをまた無駄のない、けれども温かみのある手つきで簡単に作ってみせる。いい料理人、というと必ずこの人の顔が浮かぶが、それは他の番組でなく、「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」のときの姿なのだ。
山際恭子
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■