終電ごはん(放送終了)
テレビ東京
月曜 23:58~
最近のテレビ東京が得意の「食べること」メインのドラマである。レシピ紹介半分、ドラマ半分といったところだが、その両者があいまって、なかなかいい味を出していた。
登場人物は三人。このあたり、かつての三谷幸喜の「やっぱり猫が好き」をびみょーに思い出させる。このときの三女優はそれぞれに認知され、出世もしたのだったが、「終電ごはん」の若林正恭(オードリー)、酒井若菜、佐藤仁美もすでに知名度はあるものの、このドラマにすっぽりフィットしていた。
若い夫婦(若林と酒井)がマイホームのお金を貯めるため、夫の姉(佐藤)の住む実家に同居している。共働きの二人の帰りは遅く、帰宅するとお腹が空いている。で、誰かが夜食を作る、というお約束だ。
夜食の場面はいわば情報番組だから、ごく日常的なリアリティに満ちている。そこへ非日常的な、おかしな事件を持ち込むのは、小姑であるところの夫の姉だ。この役が「やっぱり猫が好き」の、あの次女であった室井滋に相当するだろう。
もちろん、それは小さな不条理劇で、義妹であるお嫁さんのダイエットのためと称して、奇妙な戦争ゲームで緊張感を盛り上げてみたり、若妻とお風呂に入りたがる弟に対し、姉と妻の身体と心が電気ショックで入れ替わったことにしたりする。このときの姉は、小姑というよりは若いお嫁さんを可愛がる、ちょっと変わり者の、どこかにいそうな現代ふうの女だ。
それら不条理を鎮める、ごく日常的な夜食レシピの数々は肩の力が抜けていて、とてもいい。ドラマと必ずしも密接に関連してはいないが、あの「美味しんぼ」の前振りドラマ部分がひたすら退屈だったのに比べれば、よい出来栄えに繋がっている。そして「美味しんぼ」と違い、翌日にでも真似できそうなところが、またよい。
ダイエットにイライラしている若妻には、野菜と春雨がたっぷりのチャプチェ、姉がもらってきた、デパートの実演販売で出たクズ野菜を使って(まあ、誰もが思いつくが)お好み焼き、大人のナポリタンには豆板醤と少しの牛乳を加える、などなど。
コンビニや「お願い! ランキング」といった “ 深夜文化 ” といったものが、現代には成立している。そこにいるのは、いわゆる夫らしい夫、若妻らしい若妻、小姑らしい小姑ではない。若い一時期の名付けようのない、けれどもそのときしかない時間を過ごしている人たちが、終電がなくなった時間に、何だかよくわからない、だけどちょっと美味しそうなものを食べている。
頼りなくて優しい夫であり、弟であるその雰囲気を、オードリーの若林正恭が実によく出している。酒井若菜は昔からいい女優だったが、蓮っ葉さが若々しい知性に代わって、またきれいにもなった。そして何と言っても佐藤仁美のすっとぼけた感じ、それでいて弟夫婦を危ぶみながら見守っている距離感は、記憶するに値する。
山際恭子
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■