ゴーイング マイ ホーム
フジテレビ 火曜10時~ (終了)
是枝裕和監督のホームドラマである。めったにない素晴らしい出来で、放送終了してからのレビューになったのは、全部見てから書きたかったからに尽きる。そういうところは、やはり映画的だ。
そして「ゴーイング マイ ホーム」は、日本のテレビドラマで初めて、オランダで1月に開かれるロッテルダム国際映画祭に正式招待されるとのことだ。やっぱり映画だ。
そして映画であるからにはテレビ的ではないわけで、数字はあまり取れなかったみたいだが、あまり問題ではない気がする。
キャストは阿部寛、山口智子、宮崎あおい、西田敏行とオール主役級の超豪華。これに世界で認められた是枝裕和が監督となれば、はっきり言って数字なんか、高い方がおかしい。って、変か。
テレビ番組は消費されるもののはずなのに、妙に残ってしまうものって、ある。それも何かの間違いか、要領悪くもたついて逃げ遅れたみたいに、記憶の隅にこびりついている。
昔の朝の連ドラ『ロマンス』(榎木孝明・辰巳琢郎ダブル主演)とか『木更津キャッツアイ』(岡田准一主演)などの実験的な要素を含んだドラマがそうで、これらはたいてい本放送では低視聴率だ。が、再放送や DVD でブレークすることがある。アニメでも有名なのは『宇宙戦艦ヤマト』で、あまりの数字にイスカンダル星からとっとと帰ってきて、打ち切りになった。
『ゴーイング マイ ホーム』の視聴後に妙に残る感じは、けれども実験的な何かでなく、私たちの日常生活において妙に記憶に残る感じに似ている。日常生活と同じ手触りで撮られている。そのこと自体、テレビドラマとしては実験的だとも言える。
是枝裕和監督の才能を世に知らしめたのは『ワンダフルライフ』だが、死者の視点から生の時間を見下ろす静けさといったものが、独特の是枝ワールドを作り出す。そこを外すと、是枝作品というのは上手くいかなくなってしまう気がする。
だから是枝作品では、映画だろうとドラマだろうと、コストのかかった時代劇のセットだろうと、豪華なキャストだろうと、そういった現象面に舞い上がらない淡々とした視点、おそらく私たちが生を終えるとき、あるいは生を終えてから過去を振り返るような眼差しを失ってはならないのだ。
このドラマの出来がいいということは、そんな死者の眼差しで撮られているということに他ならないが、それをこともあろうに CM だって流れるテレビドラマとして放送するってのは勇気があると、十分に言える。
「人は死んでからが勝負だ」という奇妙な名言があるが、このドラマの本放送終了後の展開を予想すると、映画祭でなんか受賞 →ワイドショーで話題 →夜11時台に再放送 →高視聴率 →TSUTAYA の DVD 貸し出しで殿堂入り ということになる。ほら、最初の数字なんか問題じゃない。
田山了一
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■