書店員ミチルの身の上話
NHK 「よる☆ドラ」 火曜日 22:55 ~
始まってから見たので、映画かと思った。NHK だからCM がないので、てっきりそうだと思い込んでいた。もう 2 、3 回見てから書くべきかもしれないけれど、期待値で。
女主人公のミチルは、戸田恵梨香。平凡でちょっとくたびれた感じ(失礼)がぴったりマッチしている。地方都市の書店に勤め、彼氏もいるのだが、東京から来る出版社の営業マンと不倫関係に陥る。
この、彼氏もいるのだがイマイチ、という感じがなかなかよく出ている。誕生日にファミレスみたいなとこに連れて行ったり、頑張ったというプレゼントが 20 万円もする釣竿だったりと、なんとなくピントがずれている。悪い人ではないのだが、情熱らしきものを感じないまま結婚し、この退屈な地方都市に埋もれるのはちょっと、という女性の躊躇はごく当たり前だろう。
その倦怠、名付けがたい逡巡の雰囲気が、画面全体から立ちのぼる。説明的なくだらないセリフでなく、映像そのもので表現するのは、映画の専売特許のはずだったが、テレビドラマでできない理由はない。加えて週をまたいでも視聴者を惹きつけるサスペンスがあれば、怖いものなしになる。
東京の営業マンで、ちょっといい暮らしの匂いをさせている男と不倫関係に陥るのは、男を天秤にかけているというより、未知のもの、あるいは無償の情熱を傾けられるものへの傾斜なのだ。
女は無駄づかいは嫌いだが、そのぶん情熱を無駄づかいしたがっている。情熱の無駄づかいに引きずられるなら、金銭の無駄もいとわない。女が一番白けるのは、釣り船屋の娘に釣具をやれば無駄にもならないといった、一見堅実なようで自己チューな男の感性だ。
ミチルは、帰京する不倫相手を見送りに行き、「来月はお盆月で来られない」という男の言葉に、勢いで東京についてゆく。この辺りのやり取りも、大変よかった。軽くいなそうとする男に対し、拗ねたり試したりする言葉の弾みだというのがわかる。「では、飛行機のチケットはプレゼントしよう」と男が言い、用意してやった部屋がわりと豪勢だというのもエッジが利いている。満足さえすれば帰ることになるだろうと、双方ともに感じているわけだ。
サスペンスやミステリで大事なのは、まずツカミ。なにか起こってる感が、ごく最初の方からないといけない。だけど「親分、テーヘンダ、テーヘンダ」といきなり駆け込んで来るばかりが能ではない。一時間で話が完結する捕物帳と違い、一つの話を何週にも渡って引っ張るドラマなら、日常生活の延長として事件は起きなくてはならない。身につまされるリアリティがあるから、視聴者はドラマとともにそのクールを過ごしてくれる。
日常感を丁寧に描いてスタートを切ることと、何かが起こりかけているというサスペンサブルな雰囲気を両立させるのに、このドラマの映画的 = 非日常的な映像、そして「妻は…だった。」という得体の知れない語り口のナレーションが功を奏している。これから宝くじの1等・2億円が当たるのだそうだ。楽しみ。
山際恭子
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■