星隆弘 連載評論『翻訳の中間溝――末松謙澄英訳『源氏物語』戻し訳』(第28回)をアップしましたぁ。前回は惟光の探偵のような立ち回りや女房たちのドタバタでしたが、今回はいよいよ夕顔本人の人柄が立ち上がってきます。
夕顔は「駆け引きを知らない」女性です。源氏に二条の屋敷へひそかに連れて行きたいと迫られたとき、彼女は「そういう申し出は、怖しゅう存じます」と答えます。焦らすでもなく内心を隠して探り合うこともない。ただ怖いから怖いと口にする。その不器用なまでの率直さが逆に源氏の心を昂らせてしまう。無邪気さというのはこういう「計算のなさ」の中にこそ宿るものなのです。
もう一つ心に残るのは、八月十五夜の逢瀬の翌朝、隣家の百姓たちの暮らしの音が聞こえてくる場面です。身分の高い女性であれば隣家の生活の粗末さまで自分の品位に関わると考えきっと恥じ入ってしまうところでしょう。ところが夕顔はまったく動じない。それは世間を知らないからというより、それによって心を乱されることがない無垢さのようです。
源氏はこの無邪気さのなかに、高貴ですがプライドの高い女性たちにはない新鮮な魅力を見出しています。「いま少し修養があれば」とこぼしていますがそれは無垢であることと表裏一体でしょうね。次回も楽しみです。
■星隆弘 連載評論『翻訳の中間溝――末松謙澄英訳『源氏物語』戻し訳』(第28回)縦書版■
■星隆弘 連載評論『翻訳の中間溝――末松謙澄英訳『源氏物語』戻し訳』(第28回)横書版■
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