寅間心閑 連載小説『ど、泥卍』(第06回)をアップしましたぁ。二年半ぶりに訪れた稲垣さんの店は内装も客層もすっかり様変わりしている。白基調の明るい店から黒一色へ、テーブル席は半分、価格は二割増し――「客層だよ」という一言に時代とともに商売のかたちを変えていく現実が滲みます。かつて働いていた場所に客として座る主人公の居心地の悪さ、そして「懐かしがっているように見られたくない」という、見栄を捨てきれない心の動きが丁寧に描かれています。
今回の核心は赤坂のクラブのママ・北澤貴美子が持ち込む「独居老人の食事係」の仕事の話です。座って十万円(?)という景気のいい店のイメージとは裏腹に、彼女が語る老人像は思いのほか侘しいもの。食事は半分外食、半分スーパーという暮らしぶりに主人公は亡き祖父の面影を重ねる。祖父の大きな手、ソフトハットと香水の匂い――少年時代の記憶が挿入されることで依頼主である老人への想像がにわかに現実味を帯び始める。
そして最後に明かされる「ドロマンジ」というあだ名。泥の「泥」に卍の刺青、さらには元殺し屋という噂まで飛び出し、これまでの牧歌的な空気が一変します。しかし「兆し」―変化を求めている主人公にとってこの不穏な話はむしろ好都合かもしれない。ワクワクしてしまう彼の反応が怖くもあり、同時に人間らしくもある。稲垣さんの「お前次第だよ」という素っ気なさの奥にある気遣いもじんわり効いてきます。
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