萩野篤人 文芸誌批評 No.017 内田ミチル「赤いベスト」(新潮2025年11月号)、連載評論『九鬼周造と「偶然性」をめぐって』(第03回)をアップしましたぁ。
内田さんの「赤いベスト」は新潮新人賞受賞作です。大衆小説と違って純文学小説の良し悪しの見極めはホントに難しい。文芸誌ごとの好みと言ってしまうと身も蓋もないのですが、これが売れるか売れないかに全く関係がない、ような気がします。では売れなくてもいわゆる〝文学的価値〟が高いのかというとこれが微妙。もし文学的価値が高いのなら、それは自ずと売れる小説に繋がってゆくはずなんですねどねぇ。まあこのへんでやめときます。
『九鬼周造と「偶然性」をめぐって』の第03回は九鬼の「原始偶然」を巡る考察です。「偶然性はすべての必然性を包むものである。包越という言葉があるが、偶然性は必然性を包越するものである」「そして原始偶然が展開したと見るべきものが、与えられたこの現実の世界である」と九鬼は述べています。ここまではわかりやすいですね。ただこれが「偶然性の問題は、無に対する問(とい)と離すことができないという意味で、厳密に形而上学の問題である」と展開するとなかなか厄介な議論になります。
偶然が展開して現実世界が生まれるわけですが、それの端緒を突き詰めてゆくと無が現れる。偶然はまったくの偶然であって目的はない。つまり不可知の虚無から偶然は生じる。現実は幻想だとも奇蹟だとも言えそうです。ではこの不安の哲学は何処に落とし所を求めるのか。あるいはそんなものはないのか。スリリングな考察は続きます。
■萩野篤人 文芸誌批評 No.017 内田ミチル「赤いベスト」(新潮2025年11月号)■
■萩野篤人 連載評論『九鬼周造と「偶然性」をめぐって』(第03回)縦書版■
■萩野篤人 連載評論『九鬼周造と「偶然性」をめぐって』(第03回)横書版■
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