遠藤徹 連載小説『ビューチーコンテストオ!』(第04回)をアップしましたぁ。今回は吉永咲夜こと「コノハナノサクヤヒメ!」が登場します。『ビューチーコンテストオ!』には遠藤さんらしいペダンティズムが散りばめられています。また言葉の豊富さもこの作家の魅力です。
「誰があなたのような人間のくずの子供を身ごもったりするでしょう? わたしは、せめてものあなたへの復讐として、空気中に漂うありとある種類の花粉をこの身に取り込んだのです。さあおいで、華麗さを競い合うものたち。クレマチス、ラベンダー、チューリップ、シャクヤク、アマリリス、ペラゴニウム! 可憐な花を咲かせる樹木たちにも呼びかけたわ。アセビよ、ジンチョウゲよ、ドサミズキよ、ユキヤナギよ、ツツジよ、コデマリよ、エニシダよ! 有用なる薬効もてるサンザシ、センナ、ヨクイニン、ドクダミ、スイカズラ! 危険な毒をもつイチイも、イヌサフランも、チョウセンアサガオも、キョウチクトウも、ジギタリスも来たれ! わたしは、あらゆる種類の植物に向けてウェルカムの旗を掲げました。巨大なる雌しべと化したのです。あなたが鼻ちょうちん出して寝ている夜更けに、渦巻く花粉の大群が開け放たれた窓から恭しく頭を垂れて部屋へと入り、ヒトガタをなして諸手挙げて迎え入れるわたしの上に重なったのでした。かくして、わたしはこの世にあるすべての植物のエッセンスをわが子宮でまとめあげ、育て上げ、そしてこの三人のかわいい子たちを産んだ。初夜が明けてすぐに身ごもったわたしのことを、器量の小さいあなたは即座に疑ったわね? こんなに早く身ごもるわけがない、お前は不貞の輩だ。いったいどこの誰と不義の関係をもっていたのだ! などとあなたはわたしを責めた。そう、三行半を突きつけたのはあなたの方だったではありませんか。もちろん、これ幸いとわたしはさめざめ泣いて見せたりしつつ、心の中ではアッカンベーゼ、ベロベロバアッてな具合に舌を出しながら、『ひどい、ひどいわっ!』と悲劇のヒロインという狂言を演じつつ家を飛び出した。わかるかしら? わたしは怒って家を飛び出した態をとったけれど、実際は事実だったってことよ。ざまあみたらしだんごのべろべろばあ、この差別主義者の非人道主義者め!」
遠藤徹『ビューチーコンテストオ!』
まー、一気にこれだけ機関銃のように言葉を繰り出せる作家はそれほど多くないでしょうね。当たり前ですが文学は文字表現です。書かなければ何も始まらない。また残酷なことを言えば書いても書いても何も始まらないことも多い。それでも書き続けるのが真の作家です。書きゃーいいっていうもんじゃないとうそぶいてる間は素人ということ。まず書くこと。豊富な言葉を持っている作家はプロです。
■遠藤徹 連載小説『ビューチーコンテストオ!』(第04回)縦書版■
■遠藤徹 連載小説『ビューチーコンテストオ!』(第04回)横書版■
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