「僕が泣くのは痛みのためでなく / たった一人で生まれたため / 今まさに  その意味を理解したため」

「僕」は観念として世界に対峙する。孤独から滲む透明な抒情──。「僕」とは切り取られた世界そのものでもある。画像によって喚起されたペルソナ手法による、小原眞紀子の連作詩篇。 

by 小原眞紀子

 

 

 

 

 

だんだんいくよ

僕の気持ちが

高いところに

だんだん見える

その姿が

白い輪郭が

だんだんたどると

文字が浮かぶ

ひとつだけ

見つめていると

だんだん読めない

思い出せない

どうして読めたか

だんだん怖い

高いところに

いるこの身体が

だんだん開いて

飛びだそうとする

空に向かって

何もつかまず

だんだんできる

一本足立ち

万歳している

僕の姿に

遠くで誰かが指をさし

まだ書いてると目を細める

空のような紙に

神のような文字

そのものだからこの僕は

 

 

 

 

あらゆるグループにおいて

2という概念は本質である

それが観察に基づく

僕の結論

ガロワの群論を援用すれば

単位となる構成員があり

それぞれが(深い孤独)に苛まれる

結果として

(光と影)で浮彫りされる

その存在

たとえばあのコンビニの前

夜の路上

蛍光灯に吸い寄せられてきた少年たち

いくたりかの女の子を伴い

ところが数が合わず

男・女・男といった

掛け持ちを余儀なくされる

結合の法則

ガロワが見たら何と言うか

20歳の若さで

女のために決闘で死んだ

前夜 急いで書いた論文は

そんな連中のためではない、と

それを聞いても

彼らは笑うだろう

アヒル口の女とともに

その名の響きが

2をかたどった

その禽の鳴き声のようだ、と

 

 

 

 

僕を包む皮膚のすべてと

器官を覆う粘膜の全部から

空気の粒を感じとる

甘かったり

ざらついてたり

誰も気づいてないが

僕らの(精神)はそれを食べて生きる

息を吸い込んで

振り向くと(精神)が待ち構えて

ナイフとフォークをかちゃつかせている

五月の夕刻から切りとられた

ぷるんと蒼い小さな切片は

(精神)に沁みわたり

僕の気を遠のかせる

世界が透明に浮かびあがるから

さてこの日

湿った空気の粒々が

雲の下からひろがって

僕の鼻腔に吸い込まれると

微かな記憶を呼びおこす

この世界に生まれたときからの

逃れられないもの

気象予報士さながら

僕は掌を空にむける

匂いとは重さであること

重さとは湿り気であること

湿気の行く先は過去そのものだと

君に説きながら一瞬の

碧の重みにとらわれる

写真 星隆弘

 

 

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* 連作詩篇『ここから月まで』は毎月05日に更新されます。

 

 

 

 

■ 小原眞紀子さんの本 ■

水の領分 メアリアンとマックイン

 

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