%e6%9c%88%e3%81%be%e3%81%a7_10_cover_01「僕が泣くのは痛みのためでなく / たった一人で生まれたため / 今まさに  その意味を理解したため」

「僕」は観念として世界に対峙する。孤独から滲む透明な抒情──。「僕」とは切り取られた世界そのものでもある。画像によって喚起されたペルソナ手法による、小原眞紀子の連作詩篇。 

by 小原眞紀子

 

 

 

 

 

夜がくる

僕は半分、他人になる

だから夕闇せまると

唄をうたう

大声が

世界の果てにすいこまれ

しーんとするまで

肉体が

地べたに落ちた濁点として

放りだされるまで

それから意味なく徘徊する

誰もいない湾岸を

居酒屋の並ぶ下町を

眠る場所を求め

目覚めてつかの間

夜がくる

輪郭のあやふやに

堪えきれず唄をうたう

大声で

せまる夕闇にあらがう

世界はこたえず

僕はやっぱり濁点として

無言でさまよう

夜が明けるまで

鶏が鳴く数を数え

意識を失う

すべては無為だったと

時間は僕を流し去ると

その日の夕空にうたう

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犬は笑う

子らが転がるのが

自分と変わらないから

立ち上がって走っていっても

たいした背丈もないから

犬は吠える

男たちの声がか細くて

こんがらがっているから

一瞬黙って顔を見合わせ

また意味をこねくり回すのだが

犬は見ている

光と影だけの世界の

水と陸を

ふと風を感じるとき

青という色がみえた気がする

犬は喰う

女がくれるものなら

悪いものはない

女の子はあてにならないが

犬は思索する

犬とは何であるのか

なぜここにあるのか

このような姿で

世界を歩きまわり

すべての匂いを知っている

それを伝えられず

ゆえに愚かしいままでいる

人をあわれみ

鼻を舐めてやる

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時期がくると

葉は考える

黄色くなろうか

ところどころは

青くさいままに

その時期もすぎると

葉は考える

独りになろうか

うまく風にのれば

樹々の仲間と別れ

(光)を満喫する

自分の(影)と語らう

冷たい空気に

目を細め

徐々に遠ざかる

子らの声に

はじめて気がつく

時とは

自分自身であったと

その移ろいが

ここに刻まれるのだと

ところで

ここはどこ

それは知らない ただ

ただよってきただけ

とどまっているだけ

(光)と(影)の隙間に

心細くも また

吹きとばされるまで

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写真 星隆弘

 

* 連作詩篇『ここから月まで』は毎月05日に更新されます。

 

 

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■ 小原眞紀子さんの本 ■

水の領分 メアリアンとマックイン

 

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