露津まりいさんの連載サスペンス小説『香獣』(第26回)をアップしましたぁ。うん、面白い(笑)。謎がどんどん明らかになってゆき、また謎が積み重なってゆきます。サスペンス小説の王道です。

 

 周り中、ふわふわしていた、と十樹は告白した。「刺激は鼻から下の方に少し拡がるだけ。きめの細かい雲に包まれて、境目がなかった。秀哉もそうだったって」

 「秀哉? 専務が?」

 十樹は頷いた。「同じ。香獣だった。チドメグサの古くなった根からシプリンを見つけるまで」

 香獣。

 小宮路専務が、十樹と同じだったのか。

 「あまりいい鼻じゃなかった。失敗だったって。チドメグサのシプリンも、もう使われてない」

 「失敗って、誰が?」

 お爺さま、と十樹は答えた。「跡継ぎを作ってる。今もいる、新しい子が。二歳ぐらい」

 では、小宮路秀哉も実子ではないのか。

 「その新しい子は、どこ?」

 タイ、と十樹は言う「いつも、そこ。山だよ」

 「何をさせられてるの」

 何も、と十樹は笑った。「大きくされてる。秀哉は料理したものを食べた。それで失敗した」

(露津まりい『香獣』)

 

サスペンスはエンタメ小説の一つです。その不文律として読者を絶対に飽きさせてはならない。ただエンタメ小説だからといって、純文学などより劣るということは絶対にありません。事件が起こり、さらに謎が深まるというのは連続テレビドラマでもよく使われる手法です。しかし一本筋が通っていること――つまり作家の思想が一貫していることが、テレビドラマでもエンタメ小説でも傑作と駄作を分けます。どちらの場合もツカミはOKだけど、結末は凡庸といふことが圧倒的に多いのです。エンタメコンテンツの傑作は、純文学よりも人々の記憶に深く残ることが多いのです。

 

前回連載の『贋物師-フェイク・マスター』もそうでしたが、露津さんの小説の主人公には影があり物悲しい。社会との軋轢によって登場人物の性格や行動が規定されてゆきます。なんら純文学と変わらない。石川はエンタメ純文学という文学ジャンルはあると思います。

 

 

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