星隆弘 連載評論『翻訳の中間溝――末松謙澄英訳『源氏物語』戻し訳』(第11回)をアップしましたぁ。第二帖「帚木」の続きで「雨夜の品定め」です。『源氏物語』は今から約千年前に書かれた歌入り小説です。その起源を辿れば和歌(短歌)に行き着きます。
日本文学に関して言えば、和歌がすべての日本の文学ジャンルの母体です。和歌から物語が生まれ、歌謡(謡曲)が生じました。中世になり和歌が連歌となり、それが元となって俳句(俳諧)が成立したのは言うまでもありません。基本的に和歌は「わたしはこう思う、こう感じる」の自我意識文学です。それに対して俳句は――鶴山裕司さんが書いておられるように――日本的循環的かつ調和的世界観を表現するための非―自我意識文学です。では自我意識文学である和歌と非―自我意識文学の俳句が対立するのかと言えばそうではありません。
『古今集』は初めて春夏秋冬の部立てを設けた勅撰和歌集です。つまり短歌は元々季節・季語=日本的循環的かつ調和的世界観を内包していた。和歌はいわば総合文学だったのであり、その一部を長い時間をかけて物語や歌謡、俳句に譲り渡していったのだと言っていい。『源氏物語』が日本が誇る古典文学でありながら現代文学としても読める理由がここにあります。
『源氏』は和歌的自我意識小説です。それと同時に俳句的循環・調和性も有している。現代文学は作家の強い自我意識によって書かれますが、『源氏』は現代文学と重なり合いながら日本文学の滔々たる流れを内包した小説でもあります。
■星隆弘 連載評論『翻訳の中間溝――末松謙澄英訳『源氏物語』戻し訳』(第11回)縦書版■
■星隆弘 連載評論『翻訳の中間溝――末松謙澄英訳『源氏物語』戻し訳』(第11回)横書版■
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