総合診療医ドクターG
NHK 総合 22:00~
診断の難しい症例について、研修医たちがカンファレンス形式で病名を推理するという、あるようでなかったタイプの番組である。
なかったのも当然で、視聴者はほとんど医療関係者しかいないのでは、といった声も聞かれる。スカパーのメディカル・チャンネルじゃあるまいし、さすがに学会論文のレジュメみたいではないが、大方の人には関心を持たれなさそうな、聞き慣れない病名ばかりだ。こういう番組が作れるのは、やっぱり NHK なのである。
しかしながら皆様の受信料で製作されているからには、皆様にとってどういう意味があるのかが伝わらないと、さすが NHK 、とはならない。まあ、どんなにマイナーな病気だろうと、かかるときにはかかるのだし、そのときのための心構えと思えばいいのか。
だけど国民全部が研修医並みの知識レベルを持つ必要はなく、そのために医者がいるわけだ。っていうか、最近のテレビによる医療知識の普及で、一番困っているのはお医者さんたちだという。ステロイド剤は目に入れないように、なんてこと知らない年寄りの医者が結構いるのに、お母さんたちがジョーシキだと思ってるって、どうよ。
「謎解きの面白さを…」というアナウンスもあるようだが、そもそも一般視聴者には、推理の過程がブラックボックスだ。「発熱している場合は、この病気はあり得ない」と言われたところで、「なーるほど、そうだな」という謎解きの納得が得られるのは、医療関係者だけだし。
けれども何となく見てしまう番組で、テレビにおいて大事なことは結局、それじゃないか。テレビで推理ったって、推理小説を読んでいるときほど頭を使っているわけでなし、そもそもテレビを見ているときまで頭なんか使いたくないでしょ。研修医たちがご苦労様に「謎解き」をしているのを、ぼんやり眺めているだけで、たくさんっちゃ、たくさん。
そういうわけで、私たちがこの番組で「啓蒙」されるのは「ビョーキって、医者でもわかんないもんなんだな」ということで、これはまあ、だいぶん漠とした不安を伴う。
これと少し似ているのが、「史上最強の弁護士軍団」を備えた「行列のできる法律相談所」( 日本テレビ系列) で、弁護士の見解ってこんなに違うのか…と、やや暗澹たる思いを抱えることになった。「○○できる確率は70%」という法律判断しか示せないというのは、バラエティとしてどうなんだ、とも思うが、キャスティングボードを握りそうな政治家まで輩出した長寿番組である。
「総合診療医ドクターG」の方は、次回 (9月27日) が今シリーズの最終回のようだが、2010年から続いている。いずれにせよ医療知識の仕込みの時期としての間は必要で、それこそ医師と制作者のカンファレンスもあるのかもしれない。
医療ものはドキュメンタリーは重く、エンタテインメントに仕立てられるとすればフィクションのドラマだけ、というパターンから外れている、という意味で面白い。
山際恭子
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■