「世に健康法はあまたあれど、これにまさるものなし!」真田寿福は物語の効用を説く。金にも名誉にも直結しないけれど、人々を健康にし、今と未来を生きる活力を生み出す物語の効用を説く。物語は人間存在にとって一番重要な営為であり、そこからまた無限に新たな物語が生まれてゆく。物語こそ人間存在にとって最も大切な宝物・・・。
希代のストーリーテラーであり〝物語思想家〟でもある遠藤徹による、かつてない物語る物語小説!
by 遠藤徹
(『物語健康法 入門編』より抜粋(その①)
(第二章より)
第二章 方法と進め方
第一節 催話紡筋呼吸法
あれ、なんか難しそうなの出てきたぞ。
おや、そこのあなた。ええ、いまこのページの端に指をかけているあなた。それから、片手でポテチつまみながら、もう一方の手でこの本を持ち上げてるあなた。そして、第一節のムツカシゲなタイトル「催話紡筋」にちょっとつまづいたような気分になったそこのあなたです。
あ、わかります。ちょっと引いてますね? 後ずさろうとしてますね(でも、それ以上後ずさると崖から落ちますよ! 嘘ですけど)。
いえいえ、だいじょうぶです(ダイジョブダイジョブある)。
だからご安心ください。
これは、さいわぼうきんと読みます。催は、催眠術とか催涙弾の催ですよね。つまり、「もよおす」「そうなるようにしむける」という意味です。だから、「催話」は、「話を催す」、つまり「語りたい話が出てくるように仕向ける」という意味です。そして、紡は紡織とか紡車の紡です。つまり、糸を紡ぐということ。だから、「紡筋」で、「話の筋を紡ぎ出す」という意味になります。合わせますと「ぼんやりと浮かび上がってきた物語に輪郭を与えていく」というくらいの意味になると思います。
それは、どうすれば可能になるのか? もちろん、古代の詩人のように芸術を司る女神ムーサの神がやってきて耳からフーッと息を吹き込んでくれるのを待てば良いのです(そして、アッハーンと反応すればよいのです)。これは今の英単語インスピレーションの語源ですよね。「イン」つまり「中へ」、「スパイア」つまり「息を吹き込む」という意味です。これある意味ほんとなんです。どうも、物語ってのは、どこからかやってきて自分に憑りつく類のものみたいなんです。だって実際、いまに至るまで自動的に物語を産み出す方法は発見されていませんからね。なんらかのきっかけを得なければ、いまだに物語は動き出さないのです。
でも、このインスピレーションを受け取りやすい体質(アッハーン体質?)を作ることは出来ます。それが、わたしが編み出したこの催話紡筋の呼吸法です(アッハーン)。
心身の力みを取り、心の安定をもたらし、自分という存在を開いていく。心や体にこわばりがあると、それは一種の障壁になります。それは変化を恐れる状態であり、自分に閉じこもる状態です。そうではなく、どこまでもリラックスして、受容的になること。自分に訪れる変化を歓待する状態になることで、わたしたちは徐々に物語体質へと変容を遂げることができるのです(これホント、ウソじゃない。たぶん)。
いかがでしょう?
試してみたくなりましたか?
やってみたくなった方、ちょっと手を上げてみてください。
ああ、たくさんいらっしゃいますね。ありがとう。うれしいです。
では、さっそくお教えしたいのですが、でも、その前に、ひとつお断りしておかねばならないことがあります。
もちろん、この呼吸法はとても大切なものなのですが、この呼吸法を始める前に、できれば次節でご紹介する、緩身開心体操、別名とろけちゃうわあん体操(さらに別名うっひょーん体操)をやっていただきたいのです。ヨーガやピラティス、あるいは野口体操やゆる体操、さらには多種多様な瞑想法などのさまざまな身体技法から、物語体質作りに必要な部分だけ、つまり一番おいしいところだけを(うっひょーんと)拾い集めて再構成した、独特の体操です。
残念ながら、これを極めても空中浮揚が出来たり、未来が予言できたりするようになることはありません。もしかしたら、余計な欲望をそぎ落とすことで、若干ダイエットや無駄遣い防止に貢献することはできるかもしれません(ここは、残念ながら保証の限りではありませんが)。
でも、確実にいえるのは、物語体質への移行には欠かせないということ、そしてまずこの体操をすることで、きわめてスムーズに催話紡筋の呼吸法に移行していくことができるようになるということです。
では、体操のほうは次節をご参照いただくことにして、とりあえずは軽く呼吸法を予習してみましょうか。
まず、みなさんのもっともリラックスできる姿勢でお座りください。いえ、慣れてくると立った姿勢でも、横になった姿勢でもできるようにはなります。でも、まずは座った姿勢から初めてみましょう。
その姿勢で、目を閉じ(慣れて来たら薄目を開いた状態で)、ゆっくりと呼吸をします。
鼻からゆっくりと空気を吸います。鼻から入ってくる空気のかたちを感じましょう。それが、鼻腔を通ってお腹のなかにどんどんたまっていくさまを想像してみましょう。ええ、そうです、いわゆる腹式呼吸というやつです。
さあ、お腹いっぱいに空気を貯めたら、一度息を止めます。自分が空気で膨らんだ風船になったと想像してみましょう。慣れてくると、この想像が楽しくて、ふわふわ浮かび上がっている自分の空想にまで至ることもできるようになります(ふわふわ、ぷかぷかです)。気がついたらずいぶん長い時間そのままの姿勢で息を止めていたということも起こってくるでしょう(気が付いたら死んでた人も、なんて嘘ですけど)。でも、いまは最初ですから、無理することはありません。
自分が風船になったという想像が十分にできたら、こんどは口をうっすらと開いて、唇の間から、ゆっくりゆっくり息を吐き出していきます。ここでも風船に開いた穴から空気がゆっくりと漏れ出していく様をイメージしましょう。漏れ出す空気はなんだかかたちを帯びているようにすら感じられます。形のない透明なものではなく、開いた唇の隙間のかたちに整形され、ところてんのように絞り出されていく物質のような空気です。
空気を吐き出しながら、自分の体を意識しましょう。あなたは肉体として、物質としてそこにある。頭があり、首があり、肩がある。肩からは腕が生えています。肩の下には胴体があり、股間のところで胴体が終わります。そして、胴体から先には足が生えています。重さがあり、もしかしたらどこかに痛みがあったり凝りがある。そんな体です。
ゆっくりと呼吸を繰り返しながら、自分というものを感じます。意識的に呼吸することによってくっきりと描き出される自分を意識します。なんというかけがえのない、なんという愛おしい存在でしょう。あなたという肉体は。あなたという質量は。あなたという痛みは。あなたという凝りは。あなたという空腹は。あるいはあなたという欲望は。あなたという悲しみは。ゆっくりと呼吸をしながら、あなたはあなた自身を意識し、あなた自身を受け入れ、あなた自身を愛するようになります。
ここがすべての出発点なのです。
あなたがあなたを受け入れたとき、あなたは開かれます。あなたは受け入れる力をもつことができるようになる。それは単なる受け身ということではありません。とてもポジティブな前向きな受容性なのです。そうやって受け入れたものは、あなたというフィルターを通して変形し、そして物語となるのです。
どうです? まだうまく入れませんか? そうかもしれませんね。いいえ、心配はいりません。この後の第二節における緩身開心体操法、そして第三節で展開される物語体質養成のための生活の心得、それらを実践していくことで、あなたは間違いなく呼吸法を会得することが出来るようになります。
さあ、では進みましょう。どうぞ、次節へのページをおめくりください。
(第02回 了)
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