ウチの夫は仕事ができない
日本テレビ
土曜22:00~
仕事ができない夫に錦戸亮、その妻に松岡茉優、同僚や上司に壇蜜、佐藤隆太という数字のとれそうなキャスティングである。ただ、ハマリ役かというと少し微妙ではある。誰ならハマったか思いつかないので、これはこれでいいのか、と思う。でもどうして思いつかないのか、気になってきた。
妻の松岡茉優は、いいのではないかと思う。いまいち何を考えているのか、どういうキャラなのかピンとこないところがあって、だけどそういう奥さんっている。その意味ではリアリティがあるかもしれない。あまり演技派だったり、キャラが立つタイプの女優さんでない方が、その辺のリアリティが出る。そのリアリティが狙って出たものかどうかは、ちょっとわからないけれども。
錦戸亮の、学歴高くてルックスがよくて優しい性格の夫だが、ちょっと出世が遅れている、というのも、まあ、あるかと思える。しかしそれはドラマの設定としてはあるかな、と思えるのであって、それ自体のリアリティはないな、と観ているうちに異和感を覚える。どういうことかと言うと、そういう人が仕事ができないことについてタイトルとし、テーマにすると無理が出るかな、と。
たとえば人情ものの連続ドラマに出てくる脇役の一人が、たまたまそういう設定であったとしても、笑い話としてイジられるのも観てられると思う。ところがそれが主人公、それがテーマとなると、視聴者の方も現実に即して考察を始めざるを得なくなる。そういうやつ、いるかな。いるな、と。
企画段階で叩いておくべきこと、かどうかわからないが、視聴者が「俺、まさにそうだ」とか「ウチの夫、そうだし」と思うよりも、該当者の同僚に当たる視聴者が、「あいつ、そうだな」と思う率の方が圧倒的に高い、ということだ。該当者1人に30人の同僚がいたとすれば、1:30 の割合ということになる。それを踏まえたとき、視聴者のかなりの数が主人公夫婦でなく、同僚たちにシンパシーを覚える可能性があるということだ。
仕事ができないというのは、勉強ができないのとは違う。勉強ができない結果は本人が負うけれど、仕事ができない人のしわ寄せは同僚たちが負うのだ。つまりそういう人は現実には愛すべき人畜無害ではない。周りの同僚を悪者にしてドラマを作るのは、これら一生懸命に働く社会人・生活人たちを敵に回すことになる。
互いに思いやりをもってカバーし合い、親切に教え導くという忍耐がとっくに尽きたところに、たいていの現実は横たわっている。激しく叱責するのは、それが能力と経験の不足からきているのではない、と感じるからだ。仕事は勉強ではない。できないのは気働き、他人を思いやる気持ちがないからである。すなわち自己中な性格と心構えの問題だ、と感じたときに、大の大人を叱り飛ばすことになるのが常だろう。
だから状況によっては「このハゲー!!」と怒鳴るのもありだし、共感だって得られると思う(だいたい支持者の名前を何十人も間違えるなんて…)。ドラマでコラボが噂される(?)あの「家売るオンナ」が出て来たら、少しは同情していた視聴者も我にかえるだろう。そうだ、叩き直してもらえ。
山際恭子
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