第2回 辻原登奨励小説賞受賞作家・寅間心閑(とらま しんかん)さんの連載小説『松の牢』(第02回)をアップしましたぁ。この作家はいろんなタイプの物語を書けるんだろうなと思います。ただ一種の残酷さはすべての寅間作品で共通しています。
「お前、今仕事は?」
「運送やってる」
思わず彼の方へ顔を向けそうになった。二ヶ月前、例の刺青をからかった同僚を殴って半年勤めた運送会社をクビになり、今は近所のパチンコ屋で働いているのに。
「そうか。やっぱりきついか?」
「まあまあね」
それから彼は、勤務中に起きた幾つかのエピソードを面白おかしく披露した。私も何度か聞いた話だ。多分、目の前に座っている父親も、カウンターの中にいる母親も、自分たちの息子がこうして機嫌よく、そして早口に喋るのは、嘘をついている時だと知っているに違いない。その二人のグラスにビールを注ぎながら、私はいちいち大袈裟に驚いたり笑ったりしてみせた。どうせ嘘をつくならば、もっと上手にやればいいのにと苛立ちながら。
(寅間心閑『松の牢』)
どうやら主人公の女性の旦那は問題児らしい。それは実家の両親もよくわかっていて、かつそれから目を反らそうとしている。反らさざるを得ない過去があったことが示唆されています。しかも女性は妊娠していて、彼女なりに夫を愛している。魅力的設定です。この物語、どこまで残酷さを深められるのか楽しみです。また残酷さの果てにどんな癒やしや救いが現れるのか、もっと楽しみでありますぅ。
■ 寅間心閑 連載小説『松の牢』(第02回) テキスト版 ■
■ 第05回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
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■ 予測できない天災に備えておきませうね ■