第03回 文学金魚新人賞受賞作家 原里実さんの連作短篇小説『海辺くん』をアップしました。東大ハラ坊の連載短編小説第二弾です。原さんは、今のところと言うべきでしょうが恋愛小説作家です。ただその恋愛観念が尋常ぢゃなく高い。オジサンの石川がちょいと心配になってしまふくらいのレベルです(爆)。でもこんな天にも届くような恋愛小説を書ける作家は、石川の知っている範囲では江國香織さんくらいだな。
「海辺くん、楽しい」
わたしはカメレオンみたいだ。というより、カメレオンの逆、ということはンオレメカ。海辺くんがしゃべらないから、きっとわたしがしゃべっている。まわりとおんなじ色になるのがカメレオンなら、まわりとは反対の色になってバランスをとるのがンオレメカ。
海辺くんは空を見たままである。わたしのくちはすらすらとトランペットのようにしゃべる。よく知っている歌を歌うのとおんなじだ。考える前に口が動く。
「海辺くん、さみしい」
海辺くんのとなりは、心地が良いなあと思う。静かで、おだやかで、正直で、よけいなものをまとわない、きれいな海辺くん。
「みんな海辺くんみたいならいいのに」
わたしがつぶやくと、海辺くんはまた、ざり、と頭を傾けて、こちらを見た。そしてばかじゃねえの、みたいな顔をした。
「ほんとうよ」
わたしは言った。けれど海辺くんはなにも答えなかった。
(原里実 『海辺くん』)
実に原さんらしい小説の流れです。この作家は読者を得られるだろうなという予感がします。もちろんそれは今後の原さんの努力次第です。現在すでに純文学系の作家は本が売れなければ原稿料収入を期待できない時代になっています。一昔前の文学幻想を引きずって、稿料で食べられるなどと甘いことを考えてはいけない時代に完全に突入しています。読者を獲得して読者を裏切らない良質の本を書けなければ作家の将来はありません。
文学金魚新人賞は枚数無制限、テーマ不問、文学界での実績も不問ですから、出たとこ勝負の新人賞です。ただ既存の文学幻想に囚われない、あるいはそこから抜けだそうとする作家さんたちを的確に評価できる自信はあります。〝あなたもすぐ簡単に作家になれる〟などと甘いことは言いませんが、金魚屋も作家と同様に努力して結果を出してゆこうと思います。
■ 第04回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
第04回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■