嫌な女
NHK BSプレミアム
日曜22:00~(放送終了)
良くも悪くも、徹底して羊頭狗肉であった。もちろんそれが意図したことで、なおかつそれによってむしろ喜ぶ視聴者がいるとすると、それは少しも悪いことではない。「羊頭狗肉」という悪い評価が少しも悪くない、という意味で、その「羊頭狗肉」そのものが「羊頭狗肉」だったということか。
つまりここで描かれている「嫌な女」も、ちっとも嫌な女ではない。まあ、可愛い、いい女に過ぎない。鈴木保奈美と黒木瞳で、どちらも心底嫌な女を演じさせるわけにはいかないということだろうし、そもそもテレビドラマで心底嫌な女を取り上げるわけにもいかないという判断もあろう。
ところが我々の欲望として、心底嫌な女を見たい、と思っているところがあるのだ。日常見られない、何か極端なものを見たがる。しかしそれがずっと続くと、胸が悪くなる、などと言って見なくなる。連続テレビドラマとしては難しいところだ。嫌な女ふうに見せかけて、だんだんと好感度を上げていく、というのは手法としては正解なのかもしれない。
黒木瞳演じる女弁護士は、何年かに一度やってくる従姉妹に振り回される。鈴木保奈美演じる結婚詐欺師で、トラブルの尻拭いを押しつけるのだ。女弁護士は苛立ちながらそれに関わり、エピソードが積み重なるごとに結婚詐欺師の愛すべき点が露わになる。男を騙しつつ、それでも愛情がないわけでもない女に慰めてもらいたがる男について、むしろ批判的な視線が向けられてゆく。
結婚詐欺師の「嫌な女」を期待する向きには羊頭狗肉だが、散りばめられた台詞にはなかなか含蓄のあるものがあった。その多くは、女弁護士から男たちに対して放たれたものだ。その中では男たちが結婚詐欺師の女に関わろうとした動機も明かされるが、長台詞になればやや説教臭くなる。なにゆえ出来事のように、ぽんと言い放たれてはいけないのだろう。
彼女を「嫌な女」と見るのは女たちであり、男の弁護士たちも含めた男たちは必ずしもそうでもない、あるいは騙されても仕方ないということながら、ここでも今流行りの女同士の深い理解というものがテーマとしてはありそうである。しかしそれもまた、このドラマではフェイクだ。
ドラマは冒頭、夏子という結婚詐欺師の死から始まる。その墓の前で「わたしは信じないから」と言う女弁護士の姿が痛々しい。その痛々しさも裏切られるので、なぜならやっぱり彼女は生きているので、最終回は昔ふうの茶番じみている。画面の雰囲気がレトロ、夏子のドレスもレトロ風なのは、今に通用しない茶番を意図的に制作しているというアピールにも映る。
結婚詐欺師と女弁護士との幼少期の記憶が隠されていて、そこに深いトラウマがあるようにも見せかけられている。男たちに襲われる場面や赤い靴のフラッシュバック。実際にはなんということなくて、それがわかってしまうと、やはりドラマは弛緩する。普通の最終回のように。が、わずかに抗う素振りがあって、それが女たちの年齢への抵抗にも重なるのだ。
山際恭子
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■