純文学ホラー作家、遠藤徹さんの新連載小説『血みどろ博士』(第03回)をアップしましたぁ。今回は〝血みどろのかたまり〟君が消え失せて〝人食い牧師〟登場します。もちろん血みどろ博士と同様、過去の一切の記憶を持たない人ですが、この二人の間で実に奇妙な会話が展開します。
「どうでしょう?」
ふいに人食い牧師が血みどろ博士に声をかける。
「なんでしょう?」
あわてて血みどろ博士は人食い牧師を見る。
「ないのなら、作ればいいのでは」
「えっ?」
どういうことだろうと博士は困惑する。
「わたしたちには意味不明なこの名前以外なにもないのだったら、逆にわたしたちには名前以外のすべてを想像する、あるいは創造する権利があるのではないでしょうか。あるいは、それは義務とすら呼べるものであるのかもしれない」
「そういうものでしょうか?」
まだ博士は不確かだ。けれども、牧師の提案が魅力的に響くのは確かだ。
「もちろん、そもそもなにもないのだからなにもないままでいる、というのも一つの選択肢です。でも、なにもないのだから、何かを作って自分を満たすというのももう一つの選択肢としてありうるはずです」
『血みどろ博士』を読んでいると、小説は実に簡単で実に難しい言語芸術だと痛感します。『血みどろ博士』のようなアイディアを思い浮かべるのは誰にとってもそんなに難しいことではありません。でもその内実を埋められる作家はほとんどいないでしょうね。『血みどろ博士』は当初から不在のアイデンティティを巡っている小説ですが、作家の方にその絶対矛盾をある調和として捉える思想がなければ小説にすることができないのです。
『血みどろ博士』には深い絶望と深い愉楽があります。作家の思想は絶望に属しているように感じられますが、その小説の書き方は実に楽しげです。遠藤さんはますます普通の意味でのホラー作家ではないですねぇ。文学金魚はまぢで遠藤さんのために〝純文学ホラー作家〟というカテゴリーを作りたひと思いますですぅ。
■ 遠藤徹 新連載小説 『血みどろ博士』(第03回) pdf版 ■
■ 遠藤徹 新連載小説 『血みどろ博士』(第03回) テキスト版 ■