BAZOOKA!!!(バズーカ)
BSスカパー
毎週月曜日 夜21時~22時
BSスカパー!で放送されているトークバラエティ番組で、「自由を愛する大人のテレビ」がキャッチフレーズだ。BAZOOKA!!!(バズーカ)はバラエティ番組としてものすごく面白い。正直、BSスカパーでこんなに面白い番組が作れるとは思っていなかった。ちょっと前までのスカパーのオリジナル番組は、低予算という制約もあるのだろうが、見ていられないほど素人臭くてつまらなかったのである。これじゃあみんな地上波を見るわけだと思っていたのだが、BAZOOKA!!!のような番組が出現するとその関係は逆転するかもしれない。
BAZOOKA!!!のコンセプトはオープニングにとてもよく現れている。女の子のポールダンスから始まるのだ。ストリップクラブなどでよく行われているショーの一つである。セクシー系のイロモノダンスなのだが、誰にでもできるわけではない。テレビなどでポールダンスを披露するにはかなりの訓練が必要だ。本気でイロモノに取り組まなければ美しいポールダンスにならないのである。BAZOOKA!!!という番組にはアンダーグラウンド感がぷんぷんと漂っているが、キワモノではなく本気で取り組んでいる。
司会は吉本新喜劇座長の小籔千豊さんと真木蔵人さんである。小籔さんは最近テレビでよく見るようになったが独特の風貌で、ちょっと危ない雰囲気が漂う。実際、はっきりとした政治思想をお持ちのようで、番組でもそれがときおり顔を出す。真木蔵人さんは、友達ではないので真偽はわからないが、若い頃からやんちゃな感じの俳優さんである。だいぶ年を取ったけど、今でも画面からやんちゃで危険な雰囲気がにじみ出ている、ような気がする。
ほかにもエリイさん、レイザーラモンRGさん、沙羅マリーさん、秋本梢さん、立花亞野芽さんらがレギュラー出演されている。エリイさんはアーティスト集団Chim↑Pom(チン↑ポム)のメンバーである。Chim↑Pomメンバーが、渋谷駅に設置・公開された岡本太郎の壁画『明日の神話』に原発事故の絵を付け足して、書類送検されたニュースをご記憶の方も多いだろう。立花亞野芽さんは肉食系美人モデルとして知られている。レギュラーにも一癖二癖ある人たちが加わっているのである。
ゲストも危ない方々のオンパレードである。元オウム真理教幹部で現・アーレフ代表の上祐史浩さんがオウム事件後初めてテレビに出演され、一連のオウム事件についての意見を語っておられた。忌野清志郎率いるRCサクセション初代マネージャーだがその後フィリピンに移住して、ひょんなことから日本への拳銃密輸を手伝うことになり実刑判決を受けた方、元ヤクザで麻薬販売容疑でアメリカでFBIに逮捕され、アメリカで一二を争う凶悪刑務所で服役した方、戸塚ヨットスクール校長の戸塚宏さんなど、地上波ではまずお目にかからない方たちが出演しておられる。添加物のソムリエの異名を取る方による、コンビニ弁当の再現クッキングの回もあった。こういった企画は、コンビニなどが大スポンサーの地上波ではまず実現不可能らしい。
BAZOOKA!!!にはネット社会で言う、いわゆる〝神回〟がたくさんあるわけだが、一部はYouTubeなどにアップされているのでそれを見ていただきたい。僕がBAZOOKA!!!で一番面白いなと感じたのは表情報と裏情報の関係である。ネットを中心とした情報化時代になって、僕らは以前とは比較にならないほどの情報を得られるようになった。その中には裏情報も含まれているわけだが、さて裏情報は、どこまでが〝裏〟なのだろうか。
当たり前だが真偽不明の情報が当事者や関係者によって語られれば、それはもはや裏情報ではなくなる。裏情報は表情報として流通するようになるわけだ。ではそれによって裏情報が消え去るかといえば、そうではないだろう。裏情報はまだ語られていない情報として残るはずである。BAZOOKA!!!を見ていると、その仕組みが手に取るようにわかる。裏情報が表情報として語られるとき、それは表側に出し得るための操作を経ているのである。
たとえばオウム真理教事件について語る上祐さんは、きわめてまともな常識人に見えた。しかし彼はかつて麻原彰晃に深く帰依し、オウム真理教が巨大化するのに尽力した教団幹部である。また現在でもアーレフの教祖であり、絶対者として信徒たちの上に君臨している。彼は過去や現在について理路整然と語ることができるだろう。しかしどうしても表の言葉では表現できないニュアンスは抜け落ちる。それが新たな裏情報になってゆく。別に上祐さんを批判しているわけではない。そういった表と裏情報の機微は、懲役刑で服役した出演者すべてに指摘することができる。またわたしたち自身の中にも存在している。
人間存在は、表と裏が渾然と一体化した球体のようなものである。精神世界を含めれば、その混沌の度合いはさらに増す。それを明快な表情報としてすべてさらけだすことは何人にもできないだろう。ただ情報化時代は、どのような人間・組織にも裏表の顔が混在しているのであり、それを総体的に認識把握することを求めているように思う。地上波テレビを見るよりもネットサーフィンに時間を費やしている人が増えているのは、そのような総体的=総合的認識(情報)を人々が求め始めていることを示しているのではないだろうか。
地上波テレビのバラエティには基本的に、表の顔しかない〝いい人〟たちが出演して、たわいもない〝裏情報〟を小出しに披露する。この仕組みを逆転させたのがBAZOOKA!!!のコンセプトだろう。BAZOOKA!!!に出演するゲストたちはかつて裏社会に属していた人、また今でも危うい雰囲気を漂わせている人が多い。彼らは裏情報を語るわけだが、語られた瞬間にそれは表情報になる。おどろおどろしい裏社会に属している人(属していた人)といっても、たいていは特殊な人たちではないのだ。彼らもまた裏と表の顔(情報)を持っている。
出演者たちの話(トーク)で構成されるのが現代のバラエティー番組である。しかし地上波番組の締め付けはきつい。こんなことまでと思うような事柄までもが自主規制の対象になっている。もちろんBSスカパーだから好き勝手ができるわけではない。BAZOOKA!!!にも倫理コードのようなものは透けて見える。しかし地上波とは逆に、人間存在の闇の部分から表側に抜けようとするBAZOOKA!!!のアプローチが、現在テレビで見ることができる最もスリリングなバラエティーショーであるのは当然だろう。
田山了一