露津まりいさんの新連載サスペンス小説『香獣』(第13回)をアップしましたぁ。週刊誌記者の蓬寺の情報を得て芙蓉子は長瀞に向かいます。エゼーナ化粧品でアルバイトをしていた若い女の子が、長瀞で焼身自殺していたからです。一応は自殺といふことになっていますが、芙蓉子はとにかく現場を見に行くわけです。そしてそこでまた事件が起こる。露津さんの小説はどんどん謎が膨らんでゆきますね。
この編集後記で何度か書いていますが、小説は原理的には現世を描く芸術です。そのため金と男女、家族関係などがプロットを進めるための主要な要素になります。もちろんSF的なテクノロジーや、現実とは対応関係のない特殊な世界を描く小説もあります。しかしそれが広く世の中(読者)に受け入れられるためには〝現世を描く小説文学〟が確固たるものとして成立している必要があります。
つまり小説という芸術は、多様に見えるけれどその表現の底は固いのです。前衛小説は小説文学の底の固さに意図的に揺さぶりをかける作品だとも言えます。登場人物の造形、小説の時間・空間軸、テニオハを含めた文体を変えてやるだけでも〝前衛的〟な雰囲気は表現できます。しかしそれだけでは目先の新しさに過ぎません。優れた小説文学は、やはり小説文学の原理に揺さぶりをかけるような作品でなければならないのです。
露津さんの作品はサスペンス小説ですが、サスペンスは何事かを宙吊りにするという意味です。通常は最後まで犯人がわからないというドキドキ感を表現する作品だと解釈されがちです。でも不肖・石川は、露津さんは本質的に、小説文学の本質に関わる何事かを宙吊りにしようとしているんぢゃないかと感じるんだなぁ。古典的な顔つきをした前衛小説といふものも文学の世界には存在しているのでありますぅ。
■ 露津まりい 連載サスペンス小説『香獣』(第13回) pdf版 ■
■ 露津まりい 連載サスペンス小説『香獣』(第13回) テキスト版 ■